Vol.4ニュース企業の最先端に触れる「メッシュ・カンファレンス2011 レポート」(1)
インターネットが普及し、ユーザー数も当初とは比較にならないくらい爆発的に増大した。
あらゆる場所と人々がつながったいま、インターネットを利用するということは、ただ検索や買い物、情報発信のためだけではなく、社会そのものを変える可能性にも満ちている。
実際に、新しい産業が生まれ、旧来の産業のなかには価値転換を迫られているものもある。あまりにも変化の速度が激しいため、我々自身がその状態に適合する術を知らない。

本連載ではインターネットを介在させることで、これまで見過ごされてきた価値や経験などのヘリテージ(財産)を、新しい未来へとどう接続し直していくのか、コミュニケーションやメディアの変遷を通じて探ってみたい。
例えば、それは筆者のフィールドであるメディア産業を軸に、金融、製造など、多岐にわたる分野で起きつつあることを取り上げながら、新しい環境に我々が適合するためのヒントを探っていきたい。

 5月25日、26日の二日間、カナダのトロントで開催されたメッシュ・カンファレンスというウェブの最新トレンドについて企業や識者、個人ブロガーが集まる国際的な会議に参加した。

 本会議は、カナダでもっとも成功しているウェブ・カンファレンスのひとつであり、2006年から開催されている。カナダのインターネット接続業者のCAコム、大手PRエージェンシーのエデルマンなどが主要スポンサーとして名を連ね、マイクロソフト、シボレー、モトローラほかが今回の展示スポンサーとしてブースを展示し、活況を呈していた。

 開催場所のオールストリームセンターは、トロント市街の南西・オンタリオ湖畔にある国際展示会場だ。荘厳かつ光をたくさん取り入れたルーミーなデザインが印象的で、近くには風力発電機があり、環境にも配慮されている。

 メッシュ・カンファレンスはかなり大がかりなイベントである一方、北米のカンファレンスと違って、どこかローカルな雰囲気を醸し、とてもアットホームな印象。歩いていたら、このカンファレンスの創始者から話しかけられた。この気さくさがメッシュ的なんだろう。セッションの合間にはジャズ・バンドが場内を練り歩き、参加者たちを和ませていた。

 講演時には、公式ハッシュタグによるツィッター活用のみならず、バックチャンネルと呼ばれる専用のウェブサイトで投稿を表示させ、登壇者に質問、またその投票を行い、終始会場に映し出すなど、参加者とのインタラクションを強く意識したカンファレンスであることが窺われる。驚いたことに、スケジュールを調べたり、ツィッターによる投稿を容易にするためのiPhoneアプリまで配布されているではないか。

 初日に行われた基調講演の一回目は、「メディアの未来」と題されたものだ。登壇したのは、英ガーディアン紙でディレクターを務めた経験をもつエミリー・ベル氏。現在は2010年に新設されたコロンビア大学大学院のトゥー・センター・フォー・デジタルジャーナリズムでディレクターを務めている。ガーディアン時代の彼女は、クラウドの力を使って調査報道を行うなど、老舗メディアのデジタル化をリードした。

 基調講演前に、司会者から会場への問いかけが「このなかで紙の新聞を購読している人は?」だった。挙手したのはおよそ半数。そんなマスメディアを取り巻く環境はどのように激変したのだろうか。ベル氏は「まるで高度3万フィート上から落っこちたようなもの」と形容する。

 2003年から始まったグーグルニュース 【註1】を引きつつ、「あなたがた(旧来メディア業界人)に告げるのは残念ですが、アグリゲート(収集の意)しないなら死ぬでしょう」と手厳しい。新聞社ほかがけっして他社や参考サイトへのリンクを認めないことに対し、"ウォールド・ガーデン・シンドローム(囲まれた塀症候群)"との批判があるが、それを含めての発言であろう。

【註1】 グーグルニュース
プログラムによる自動生成型のニュース・アグリゲーション(収集)・サイト。ひとつのトピックについて複数のニュースソースから自動収集。読者は自分の関心にあわせてカスタマイズすることができる。
「http://www.guardian.co.uk/commentisfree」より

 そして、「いまメディアで起きていることを説明するのは、40年前の人にソーシャルメディアを語るようなもの」と激変する様についての理解が、既存メディア人に対してですら容易でないことへのもどかしさを滲ませた。

 ベル氏がガーディアンで携わったプロジェクト「コメント・イズ・フリー」のページを見てみよう。

 このサイトでは、編者が注目する記事に対してソーシャルの声がコメントとして寄せられている。今でこそ読者参加型メディアは珍しくないが、ガーディアンのような新聞社がブログのように迅速な記事生成と読者とのやり取りを容易にするシステムをメディアとして早期より利用してきたことは注目に値する。

 ベル氏は今後の情報における価値は、「タイムライン、関連性、ユーザーの経験にシフトした」と主張。おそらく、「タイムライン」とはいかに迅速にリアルタイムウェブ(かつてウェブは情報の受発信にタイムラグがあったが、いまでは逐次に情報発信と受信が可能になった)の速度に追従し、どのような特徴のタイムラインを形成できるかということではないか。

 そして、「関連性」とは記事と読者を結びつけるものであり、紙面とは違うウェブでそれをどう設計するかが重要であろう。さらに、単に情報を届けるだけではなく、その情報から先にどれだけユーザーが興味のあるニュースについて掘り下げられるのか、あるいは誰かと共有したり、コメントを投稿するなど参加を含めた体験どう提供できるのかが問われることと推察される。

 話題の多くは旧来メディアと新規メディアへの転換の難しさに及び、今後、生き延びていくニュース企業像について、「未来のメディアは、小集団で低いマージンで動く。速いことと小さなことがカギ」「リアルタイムウェブとソーシャルメディアが理解できなければ生き残れない」とも。

 「信頼がすべてである」という彼女の言葉に象徴されるように、最終的にはそこがプロフェッショナル・ジャーナリズムのもつ最後の砦であり、ボットと呼ばれるプログラムによる集積するだけの"冷たいトランザクション(処理)"には限界があるという趣意が伝わってきた。

 ベル氏の話を聞いていたら、米のメディア評論家、ジェフ・ジャービス氏がかつて自身のブログに書いていた言葉を思い出した。それは、"ボット支援型の人間によるアグリゲーション"、ないしは"人間支援型のボットによるアグリゲーション"が理想的であるという旨の記事だったと記憶する。

オン・ザ・ウェブからオブ・ザ・ウェブを目指せ

 午後にわたしが参加したセッションのひとつに、最近AOLに買収されたハフィントンポストのソーシャルメディア・エディターを務めるロブ・フィッシュマン氏によるものがあった。テーマは、ニュースサイトにおけるソーシャルメディアが果たす役割について。ご存知ない方のために、ハフィントンポストについて触れておくと、同サイトはウェブ上のニュースサイトであり、2005年に作家のアリアナ・ハフィントン氏により創設された。

 ニュース・アグリゲーションサイトとして一躍注目を集め、ソーシャルメディアの扱い方も一歩先を行く。そんな同サイトは、まさにウェブ生まれ/ウェブ育ちの新興ニュース企業と言っていいだろう。

 さて、フィッシュマン氏の肩書き「ソーシャルメディア・エディター」とはどんな仕事を指すのだろうか。まずは、フィッシュマン氏の話を紹介していこう。フィッシュマン氏は、「(ハフィントンポストは)情報を配信するのではなく、情報を交換(エクスチェンジ)する」と謳う。

 ハフィントンポストには、20のカテゴリーがあり、それぞれにエディターがいるとのこと。そして、これらのエディターが即ち、ソーシャルメディアも担当しているようだ。特にツィッターでの投稿には100名のエディターが関わり、自動的な配信(フィード)ではなく、人力によるものだという。各カテゴリー別にエディター自身が記事を掲載し、ソーシャルメディアで共有されることを促しているらしい。

 ハフィントンポストでは、各記事がフェイスブックのオープングラフを利用して掲載される(オープングラフについては前回連載記事を参照のこと)。それゆえ、各記事が参照され、共有が加速していくのだろう。フィッシュマン氏によれば、同サイトには月間200万ものコメントがつくようだ。

 もちろん、人間によるチェックはほぼ不可能であり、ハフィントンポストでは高度な文章解析を行うプログラムを使い、加えてのべ30人が確認に当たっているようだ。彼は、寄せられたコメント数からしても、同サイトは読者とのエンゲージメントが高いと述べる。

 また、プロからの投稿だけではなく、市民ジャーナリズムも支援しているのがハフィントンポストの特徴だ。動画や関連記事への参照リンクなども行う。このあたりが同氏の言う、単なる「配信」ではなく、「交換」という意味を直接的に表しているあたりか。

 なお、今年に入ってからカナダ版も開設され、現地でもフィッシュマン氏のセッションは現地メディアからもかなり注目されていた。私自身も面白い話を聞けたと思う。特に新聞社のように整理部が記事を整理して紙面構成するのではなく、エディターが自らの記事を直接ツィッターやフェイスブックのソーシャルメディアに乗せて、ストリーム(流れ)を編んでいくという点は、2009年に上梓した自著『新世紀メディア論』でわたしが主張した"新しい編集者像"の具体化の一部にほかならない。

 フィッシュマン氏は、「多くのメディア企業のサイトがオン・ザ・ウェブ(ウェブ上の)なら、ハフィントンポストは、オブ・ザ・ウェブ(ウェブ内の)だ」と同サイトの特徴を括った。

 最近、ハフィントンポストは投稿するユーザーを「レベル1のネットワーカー」「レベル1のスーパー・ユーザー」などと格付けし、バッジを付与するなど、流行のゲーミフィケーション【註2】 を採用している(個人的にはやり過ぎな気もするが・・・)。このあたりも、なるほど「オブ・ザ・ウェブ」メディアとしての片鱗が覗く。ニュースに限らず、もし、あなたが現代のウェブ・マーケティングの先端トレンドを知りたければ、ハフィントンポストを真っ先に見るといい。

 さて、次回はこのメッシュ・カンファレンスの続きをお伝えする。前述したゲーミフィケーションについても触れたい。

【註2】 ゲーミフィケーション
直訳するとゲーム化戦略だが、ゲームにおける要素を非ゲーム的なものにも持ち込もうという顧客囲い込み戦略。それによりユーザーとのエンゲージメントを高めることを目的としている。昨今、米国ではゲーミフィケーションの考え方に基づくサイトや仕組みが増えつつある。

  こばやし・ひろと 1965年生まれ。1994年に情報誌『ワイワード』を創刊。出版社勤務を経て、会社を設立。1998年には情報誌『サイゾー』等の媒体を立ち上げる(同誌他は07年に事業売却)。2003年、著名人ブログをプロデュースし、日本初のブログ出版を手掛け、『眞鍋かをりのココだけの話』がベストセラーに。2007年には全米で人気のブログメディア『ギズモード・ジャパン』を立ち上げる。数多くのウェブサイトやデジタル・マーケティングに携わり、成功に導く。著書に『新世紀メディア論』(バジリコ)。解説・監修の『フリー』(NHK出版)、『シェア』(同)、解説の『フェイスブック 若き天才の野望』(日経BP)が大きな話題に。株式会社インフォバーン代表取締役CEO、東京大学大学院・情報学環 教育部 非常勤講師。フェイスブックページ:http://www.facebook.com/kobahen

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