電波利権をめぐるテレビと携帯の全面戦争(前編)
米国の無線ブロードバンド政策は横暴か正当か

FCCのボランタリー・オークションを非難するゴードン・スミスNAB会長 (NAB Show2011で筆者撮影)

 米国で地上波テレビ業界と携帯電話業界が全面戦争に入っている。日本と同様、スマート携帯やタブレットの普及で、米国の携帯データ・サービスは、需要が急速に拡大している。このままでは「6年後にネットワークが破綻する」と主張する携帯業界に対して、地上波テレビ放送業界は「事実を歪曲している」と反発する。2012年大統領再選を狙って「米国を世界最先端の無線ブロードバンド大国する」と唱えるオバマ大統領に、テレビ業界は真っ向から挑戦状を突きつけている。

電波利権に火を付けた全米ブロードバンド計画

 まず、米国における周波数逼迫問題の経緯を簡単にまとめてみよう。

 2010年3月、連邦通信委員会(以下、FCC)は連邦議会に全米ブロードバンド計画(以下NBP)を提出した。同計画はブロードバンド整備による経済活性化を目的としており、その柱の一つが無線ブロードバンドの整備促進だった。具体的には、向こう5年間に300MHz、10年間に500MHzの帯域 *1を通信事業者に供給する野心的な提案だ。

 オバマ大統領は2010年6月28日に、この整備計画を認めるメモランダムに署名し、FCCは無線帯域の確保に乗り出している「The Broadband Action Agenda」によれば、FCCは180MHz分の無線免許競売を2011年から2013年に3回に分けて開催しようとしている。

 しかしNBP発表当時、連邦政府が手元に持っていた周波数は、AWSバンド60MHz(1755 to 1850 MHz)や2008年の競売で政府民間共用ネットワーク向けだったDブロック(落札されなかった)などで、とても300MHzの帯域には足りなかった。

 そこでFCCは船舶無線や衛星通信などから電波をかり集める(用途変更)こととした。特に、当面目標の3分の1以上に当たる120MHzをデジタル・テレビ放送用に割り当てたUHF帯域(700MHz)から調達しようとした。

*1 供給する周波数は225MHzから3.7GHzの間。

 この調達方針により、米国のテレビ・ラジオ業界を代表する全米放送事業者協会(以下、NAB)は、難しい立場に立たされた。アナログ放送停波後、NABは連邦政府および議会との宥和政策 *2を進めていたところに、この難題が持ち込まれたからだ。

 FCCは、交付した事業免許を一方的に取り上げる「つじつま合わせ」として、テレビ局にボランタリー・オークションを提案した。これはFCCが主催するオークションに、各テレビ局が自主的(ボランタリー)に参加し、周波数の一部を競売する内容となっている。

 今年に入り、連邦議会は競売によるライセンス料の一部を放送局に還元することを認める法案も可決した。競売参加はあくまで各局の自由意志とはいえ、FCCは現在、大手テレビ局を中心に活発な交渉をおこなっている。

 しかし、放送局にとって電波は最大の利権といえる。これを手放すことにテレビ局は強い難色を示した。そのため、NABは宥和政策を捨て、ボランタリー・オークションを潰すべく、対決姿勢を鮮明にしている。こうして周波数逼迫問題という"テレビと携帯の電波利権戦争"が勃発した。

 強気に転じたNABには、2012年の大統領選挙を前にしているため「野党・共和党の支援を得られる」との読みがある。共和党にとっても、テレビ業界の票が得られること、競売阻止は「無線ブロードバンド大国」を公約しているオバマ大統領に打撃を与えること、の一石二鳥となる。

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