『陽の鳥』 著者:樹林伸
希代のヒットメーカーが挑むメディカル・エンタテインメントを連続公開 VOL.2
『陽の鳥』
著者:樹林伸
講談社
定価1,680(税込)

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◎担当編集者よりの紹介◎

 「生命倫理と家族愛」をテーマに、希代のヒットメーカーが挑むメディカル・エンタテインメント大作!

 関東大学畜産学部の沖田森彦は医師免許を持つ霊長類クローンの研究者。妻を亡くし、高いIQを持つ小学生の息子・有基と二人で暮らしている。1999年、沖田は助手の名嘉城数矢とともに、世界で初めてヒト・クローン胚の樹立に成功していた。科学の歴史に新たに名を刻む、世紀の発見。しかしその発表を間近に控えた矢先、息子の有基が突然の事故に遭い、この世を去ってしまう。

 悲嘆に暮れる沖田が下したある決断---それは、助手の名嘉城と共謀し、生命科学のタブーであるヒト・クローン技術によって、息子を「復活」させることだった・・・!!

第一章 一九九九年の喪失

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 一七階建て高層マンションの二階に暮らしている名嘉城数矢は、ふと上層階の住人たちに見下されているような気持ちになることがあった。一階部分の大半が駐車場で、残りはコンビニとオフィスで占められているから、居住階としては二階が最下層になる。もちろん家賃は一番安いものの、マンションにおける二階部分のヒエラルキーは家賃の差よりも低く感じられた。

 数矢は他人に見下されるのを極度に嫌うところがある。自分でも生育歴からくるコンプレックスが原因だと自覚してはいたが、この性質だけはどうにもならない。大学病院の勤務医という立場が傍で見るほど居心地がよくないことを知って、もうひとつ研究者というある意味で神聖不可侵な自分を携えておこうと思ったのもそれが理由だ。

 もっとも、この大規模マンションは元々は分譲されたもので、誰かが買ったものを賃貸物件として借りているにすぎない。どうしても我慢がならなければ簡単に出て行けるわけで、そうせずにかれこれ二年も住み続けているのには、それなりのメリットがあるからだった。

 ひとつは、一階にコンビニが入っていることである。朝五時に業者によって届けられた比較的新鮮なサラダやサンドイッチが、寝起きの格好にサンダル履きで階段を二十数段降りていくだけで手に入る。独身者の数矢にとって、この便利さは捨てがたい。さらに、2LDKで60平方メートルあって家賃がたったの一二万円というのも、このあたりでは格安だった。

 また、最寄り駅が北千住というのも都合がいい。二つの職場のある筑波の最寄り駅『ひたち野うしく』までJR常磐線で四四分だし、東京駅にも二〇分ちょっとで行ける。マイペースに仕事ができる生命科学の研究室と兼任とはいえ、いちおうは大学病院の医師である数矢は会合などで都内のホテルに出向くことも多く、新幹線を利用する出張も月に一、二度はある。職場に通うにも都内に出向くにも楽な北千住からは、できれば離れたくなかった。