日本を破綻に追い込む
鳩山政権の地球温暖化対策

このままでは20兆円以上の支出にも
空気が大金に化ける「排出権ビジネス」。温暖化防止の美名の下で生まれた新しい利権に翻弄される日本の姿を描いた話題作『排出権商人』の著者、黒木亮氏が、「25%削減」を訴える鳩山政権の無策ぶりを告発する。

 2002年5月に米国の格付会社ムーディーズが日本国債をボツワナより低いA2に格下げしたとき、日本全国で轟々たる反発が沸き起こり、ムーディーズ本社の格付け担当者が国会で参考人招致される騒ぎになった。その後、ムーディーズは日本国債の格付けを3度にわたって引き上げ、現在はAa2になっている。ところが、日本の公的債務残高を見てみると、2002年5月頃はGDP比で150%程度だったのが、その後うなぎのぼりに上昇し、現在ではGDP比180%前後になっている。この数字は主要先進国の2~4倍であり、増加率を見ても日本は群を抜いている。

黒木 亮(くろき りょう)〔作家〕
1957年、北海道生まれ。現在、ロンドンに在住。早稲田大学法学部卒業後、都市銀行に入行。その後、証券会社、英国三菱商事などを経て、作家として独立した。著書に国際金融小説『トップ・レフト』、『エネルギー』など。自伝的小説『冬の喝采』には、中村清監督、瀬古利彦らとともに活躍した早稲田大学競走部時代の感動的なエピソードが克明に描かれている。最新刊は『排出権商人』。

 1990年代初頭、日本の公的債務はGDPの60~70%にすぎなかった。しかしその後、「失われた10年」の景気刺激策や、格差拡大に対する国民の不満を和らげるための財政支出で、制御不能なほど公的債務が増大したのである。また税収が40兆円を割り込むにもかかわらず、90兆円を超える予算を組み、財政はほぼ破綻状態にある。関係者の間では、あとしばらくは国内で国債を消化できるが、やがて海外で発行せざるを得なくなり、今から10年後以内に、にっちもさっちも行かなくなって、大幅緊縮財政とか償還の実質的な繰り延べをしなくてはならなくなるというシナリオが囁かれている。今の日本国債の格付けはかつてのA2どころかBaa1くらいでもおかしくない。

 日本国債がデフォルトするかもしれないという恐怖のシナリオを一段と現実化するのが、鳩山首相が掲げた温室効果ガス排出量を1990年比で25%削減するという国際公約である。1997年の京都会議で日本は開催国のメンツにこだわり、1990年比で6%の温室効果ガス削減という過大な義務を負った。しかし、排出量は減るどころか、逆に2007年時点で8.7%増えている。2008年は世界的景気後退でかなり減ったが、それでも1990年比で1.8%増である。このため、日本は海外から排出権約4億トン(世界銀行の推計)を購入して埋め合わせなくてはならない。金額にすると、過去の排出権価格からいって1兆円程度がかかる。

 こうした状況であるにもかかわらず、鳩山首相は就任直後の国連演説で、国民や産業界の同意もなしに、いきなり25%削減を国際公約にしたのである。しかもどうやっていくら減らすかの具体策もなく、出てくるのは「最初に目標の数字ありき(バックキャスティング)」とか「国内排出量取引制度や地球温暖化対策税などの施策を総動員する」といった抽象的な話ばかりである。実際に国内で削減される「真水」と排出権を購入して埋め合わせる分がそれぞれいくらになるかという見通しも示していない。

 しかもこの25%という目標は、他の主要国に比べて異様に突出して高い目標である。経済産業省系の財団法人地球環境産業技術研究機構(京都府木津川市)の試算では、2020年までの削減目標を比較した場合、日本は2酸化炭素排出量を1トンを削減するのに476ドルの費用がかかるのに対し、アメリカは60ドル、EUは48ドルにすぎない。中国にいたっては、GDP比で、しかも義務ではない自主目標しか打ち出していない。