雑誌
口蹄疫クライシス 報じられない「感染情報」と「検体」
著者:志村 岳(ジャーナリスト)

もう宮崎だけではすまないかもしれない

 恐れていた事態が起きてしまった。あれだけ対策を取っていたにもかかわらず、新たな地域で口蹄疫に感染した牛が発見された。ウイルスはすでに海峡を越え、本州に上陸していても何ら不思議はない。

県外に拡大するのは時間の問題

「今日、感染して2週間以上経過した牛4頭の殺処分の現場に行ったら、もの凄い腐臭が漂っていました。家畜は死んで1週間もすると腐敗が始まり、ドロドロに溶けて、体液が出てくる。

 ホルモンが腐ったような臭いと言えばいいでしょうか。県の環境管理課が巡回していますが、いまは殺処分を進めるのが先決で、環境対策まで手が回っていない状況なんです」

 宮崎県川南町議で、死亡家畜の処理業を営む山下壽氏はそう語る。

 宮崎空港から東九州自動車道、あるいは国道10号線を日向灘に沿って北上すると、口蹄疫の直撃を受けた川南町、木城町、都農町などの農村地帯へと至る。現場ではいまも畜産業者たちの無念の思いとともに、牛や豚の殺処分が続いている。

「牛も臭うけど、たいしたことない。豚に比べりゃまだマシです。豚は脂の塊だからね。腐敗が進んできたから、ガスが出てきて臭うんだ。すでに埋却地の近くの住民から苦情が出ている。県の職員も『豚(の殺処分)はつらいわ。動き回るし、ピーピー泣かれるし』とこぼしていました。

 半径10キロ圏内の全頭殺処分で、川南町に限ると疑似患畜(感染の可能性があるので殺処分対象になっている家畜のこと)は処分のメドがついた。ただ、ワクチン接種を終えた(未感染を含む)家畜はこれからで、7月末まではかかる。梅雨になれば殺処分作業はもっと遅れるかもしれない」(川南町の酪農業者)

 口蹄疫に罹った牛や豚の体液が土壌や地下水を汚染しないよう、穴に石灰を撒き、その上にブルーシートを敷いて、死体を放り込む。さらにその上から石灰を撒き、最後に土を被せていく。盛り土の上からまた石灰を撒いた埋却地が点在する光景は、一帯が白い墳墓地のようでもある。

 ただ、一方で明るい話題がないわけでもなかった。

 口蹄疫の発生以来、感染拡大防止のために同県西部のえびの市を中心に半径20キロの範囲で設けていた家畜の移動・搬出制限は6月4日に解除された。感染が疑われていた宮崎のエース級種牛5頭も「陰性」と判明し、東国原知事は一安心した様子で、「夏休み前には安全宣言したい」と語っていた。その矢先---。

 これまでまったく感染報告のなかった同県都城市で、6月9日になって新たに3頭の牛に口蹄疫の疑いがあることが発覚。翌日には感染が確実になった。都城市は被害の中心地となった川南町の2倍以上の牛や豚が飼育されており、市町村別では牛、豚とも肉の生産額で全国1位を誇っているだけに、生産者に与えた衝撃も特別だった。

 同時に都城市は黒豚や黒牛の産地である鹿児島県との県境に位置するため、鹿児島県内の畜産農家も厳戒態勢だ。さらに翌日にも新たに宮崎市内などで感染の疑いがある牛が見つかり、終息どころか本当の口蹄疫クライシスを迎えている。

 6月7日に農水省の疫学調査チームのメンバーとして宮崎県入りした東京大学大学院獣医微生物研究室の明石博臣教授が語る。

「川南町からえびの市までの距離が約60キロです。口蹄疫ウイルスが川南町周辺からえびの市に運ばれたことはほぼ確実なので、おそらく家畜の運搬車が二つの地域を繋いだのだろうというのが、チームの見解です。

 車両の消毒はかなり徹底してやっているので、これまで同じような例は出ていませんが、今後出ないのかと言われると、それはわからないとしか言えない」

 残念ながら、明石教授の懸念は、都城での感染報告で現実のものとなった。都城は川南町から約60キロ、えびの市からでも40キロほど離れている。なぜ、それだけの距離をウイルスが移動したのかは、いまのところまったく不明。

 こんな状況では、口蹄疫が宮崎県外に拡大するのは時間の問題だ。検問所での消毒など、これまでも県境では拡大防止策を取ってきたが、ウイルスに県境など関係ない。

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