菅直人の「左翼性」について
それほどのものでもない

 一介の市民運動家から、ついに首相の座に上り詰めた菅直人氏。"イラ菅"と揶揄される直情径行型の性格や、突然お遍路に出てしまったことなどは有名だが、その反面、彼がどんな政治思想をもち、いかなる国家像を目指しているのかは、まったくと言っていいほど伝わってこない。

安倍元首相のような「右翼」から見れば「左翼」かもしれませんが

 そんな中、野党・自民党から聞こえてきたのが、市民運動家出身の菅氏に対する「左翼」批判だ。

 その急先鋒たる安倍晋三元首相は、「史上稀に見る陰湿な左翼政権」と口をきわめて菅内閣を罵倒。

 安倍氏の盟友、麻生太郎元首相も「市民運動と言えば聞こえはいいが、これだけの左翼政権は初めてだ」と、親の敵のように菅新政権の「左翼性」を攻撃している。

エセ左翼と「俺は違う」

 確かに社会党出身の仙谷由人官房長官、東北大時代に学生運動に傾倒していた枝野幸男幹事長など、菅内閣には左翼性を感じさせる人物が多い。

 また、子ども手当のような社会福祉政策や、中小企業のみを法人税減税の対象にして、大企業を敵視するかのような民主党の政策そのものが社会主義的だと指摘されることは少なくない。

 では、菅新総理も左翼的思想の持ち主なのか。学生時代の同級生や市民活動家時代のスタッフ、元秘書たちから話を聞いた。

 菅氏の東京工業大学在学中は、'70年安保闘争の真っ只中。菅氏も3年生のころから学生運動に身を投じている。当時、東工大では中核派が実権を握っていたが、菅氏は既成の新左翼運動を毛嫌いし、自ら全学改革推進会議という組織を作り、リーダーになった。当時の同級生たちの目には、ノンポリのリーダーと映っていたようだ。同級生だった小川正氏が言う。

「当時、左派の学生は暴力革命を目指していましたが、彼はキチンとしたステップを踏めば、暴力に頼らずとも改革はできると主張していた。過激な左派学生たちからは、吊るし上げを喰ったりしていましたが、その一方で、『肝っ玉の据わった奴だ』と一目置かれてもいました」

 ある日、小川氏が新聞の投書欄を何げなく眺めていると、"菅直人"の署名がある投書が載っているのが目に入ったという。

「確か朝日新聞だったと思います。投書の趣旨は当時、八幡製鐵と富士製鐵が合併し新日本製鐵が生まれたことを批判したもので、このような大企業どうしによる大型合併は、必ず弱小企業にしわよせがくるからよくない、という内容でした。私が彼に『君、あんな記事を投稿したの?』と聞いたら、照れくさそうに『まあね』とか言っていました」

 学内改革を掲げて学生運動に熱中し、大企業批判を繰り広げる若き日の姿からは「左翼」的な要素が確かに感じられる。

 菅氏は学生運動にのめり込むあまり、大学3年頃から教室には顔を見せなくなり、1年留年。卒業後、特許事務所に勤め、弁理士になるが、これは同級生たちに菅氏が語ったところによると「左翼運動をやりながら、卒業すると何事もなかったように大企業に勤めて平然としている奴が多い。俺は違う」という理由だった。ちなみに弁理士の試験に合格するのは、4度目の受験のときだ。

 弁理士合格と同時に市民運動家としてのキャリアをスタートさせた菅氏は、まず「よりよい住まいを求める市民の会」という団体で、市街地の農地に対して宅地並みの課税を求める運動を始める。

 農地の課税額が上がれば、手放す人も出て、結果的に団塊世代がもっと安い値段で住宅を手に入れられるようになるという発想だった。農家の戸別補償を決めた現在の民主党の考え方とは、相容れない思考だろう。

 市民運動を続けるうち市川房枝氏の知遇を得た菅氏は、1974年の参院選で市川氏の選挙事務長を務め、自らは'76年の衆院選に初出馬するも落選。その後、'77年参院選、'79年衆院選でも落選し、'80年に社会民主連合から出馬して念願の初当選を果たした。

 菅氏の初代公設第一秘書を務め、現在は民主党・川内博史代議士の秘書でもある湯川憲比古氏が言う。

「菅さんは初当選した頃から『野党第一党の党首になりたい』とよく言ってました。なぜそうなのかと言えば、何かが起きて政権交代があれば、野党第一党の党首は首相になれるポジションだからです。

 党首に対する本人の思いは強く『俺はデパートでなくていい。人の流れが変わったときに売り上げでトップに立てるスーパーの一番店になりたいんだ』という言い方もしていましたね」

 この言葉からも見えるように、菅氏は政治家になってから、ひたすら権力の階段を駆け上ることに傾注していく。その姿を追う前に、政治家・菅直人の知られざるエピソードをいくつか紹介しておこう。

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