新総理・菅直人 仙谷 枝野 前原「小沢追放会議」
血で血を洗う権力闘争、その内実

 見えてきた参院選圧勝 あとは亀井をどうするか

 菅首相と仙谷官房長官は、小沢前幹事長との対決姿勢を露にした。執念深い小沢氏が、辞任に追い込まれたまま引き下がるわけもない。生き残るのはどちらか。激しい抗争の幕が開いた。

菅首相から「静かにして」と言われ、内心は怒り狂っているはず

 鳩山由紀夫前首相の退場から、菅直人新政権の発足へ---。民主党による政権交代の第2幕が開いた。

 だがそれは、政権内での主導権を巡る、血で血を洗う激しい権力闘争の幕開けでもある。

 鳩山前首相の最後の一撃で、小沢一郎前幹事長は強制的に退場処分となった。世に言う「道連れ辞任」である。小沢氏は事実上、失脚。これを見た民主党のベテラン議員はこう語る。

「これで小沢さんは、おしまい。政治家として消えていく。小沢幻想、小沢神話に振り回されるのも、そろそろ終わりということだ。

 自民党で、森喜朗や古賀誠、青木幹雄らのことはもはや誰も気にしていない。同じことが小沢さんの身にも起ころうとしている」

 その一方で、小沢派の議員らからは、猛烈な反発が沸き起こっている。

「これは戦争だ。菅内閣が小沢グループを一掃するつもりなら、こちらにも考えがある。菅内閣など、単なる選挙管理内閣に過ぎない。後でほえ面をかくのは、菅や仙谷(由人・官房長官)、枝野(幸男・幹事長)のほうだ」(小沢側近の一人)

 民主党を揺るがす権力闘争の一端は、6月9日に行われた、小沢氏から枝野氏への新旧幹事長の引き継ぎ会談からも垣間見えた。

党内抗争の火種を抱えての出発。世論には高支持率で迎えられた

 昨年9月、約20年ぶりに奪還した国会内の与党幹事長室を、わずか8ヵ月あまりで退散することになった小沢氏は、表面上、淡々としていたが、内心は腸が煮えくり返る思いだった。

「格下の枝野なんかに、何を引き継ぐんだ。お前みたいな小者に、何ができる。ケッ!」と言わんばかりの尊大な態度。

 従って枝野新幹事長との面談は、たったの3分。膨大な資料を枝野氏にドサリと渡しただけの形式的な作業で、小沢氏はそっぽを向いたままだった。

 小沢氏に近い議員らからは、さっそくこんな声が聞こえてくる。

「枝野は政策通と言われるが、選挙対策や国対関係など、党務にはまるで詳しくない。結局、居残っている細野(豪志幹事長代理)ら、小沢系の議員に頼らなければ実務なんかできないんだよ。枝野は、引き継ぎで渡された山のような資料を見て、蒼くなっている。参院選までに、ゼロからそれを見直すなんてことは不可能だからな」(小沢グループ中堅議員)

枝野、仙谷という反小沢ツートップが菅政権の行方を左右することになる

 小沢氏から見て、枝野氏は「チンピラ」(同)に過ぎない。そして枝野氏のほうも、小沢氏のことを評価せず、「(自分と違って)弁護士になりたかったのに、なれなかった奴(小沢氏は司法試験に合格することができなかった)」として、陰で蔑んできた。

 そのことを、実は小心者の小沢氏は、大いに気にしている。というより、絶対に許すことのできない侮辱なのだ。

「勝手にしろ。お前なんかに、どうせまともに幹事長が勤まるわけがない」

 小沢氏は3分で切り上げた引き継ぎによって、枝野氏にそう通告したに等しい。

 ただ小沢氏がそうした対応をすることを、人事を決めた菅直人新総理も、仙谷由人新官房長官も、十分に承知していた。

 組閣の直前。菅、仙谷氏らが集まり「小沢追放」のための対策を話し合った会議でのこと。当の枝野氏本人が、「私が幹事長で本当に大丈夫なんですか」と就任を渋った。国家戦略相に就任した菅首相の側近・荒井聰氏も、「それでは政権がもたない」と猛反対していた。

「幹事長室は、小沢一派の牙城です。そこに枝野氏が徒手空拳で飛び込めば、嫌がらせやサボタージュで仕事が回らなくなる。枝野氏は『自信がない』と、就任を躊躇していたのです」(全国紙政治部デスク)

小沢のカネの流れを洗え!

 ではなぜ、菅首相と仙谷長官は、それでも枝野氏を幹事長に任命したのか。

 実は仙谷氏には、小沢封じの"秘策"があった。小沢氏の影響力が残る党と幹事長室を掌握し、コントロールする方法---。それは、従来は国会内にあった幹事長室を、「官邸内」にも設置しようという構想だ。

 国会対策を含めた党務の最高責任者である幹事長の執務室は、党本部以外は、通常、国会内にある。小沢氏もその慣例を踏襲し、「モノを言いたい」時にだけ首相官邸に乗り込み、鳩山政権の政策を鶴の一声で左右し、力を誇示してきた。

 仙谷氏は、そのシステムを破壊しようとしている。

「小沢氏の力の源泉は、幹事長室、選対、国対の3つ。逆に言えば、ここから小沢氏の影響力を取り除けばいい。そこで、幹事長室そのものを官邸内に移し、菅---仙谷コンビの直轄にしてしまえ、というのがこの構想です。幹事長職を、実質的に官房長官の管轄下に置くことで、枝野氏を仙谷氏がバックアップする。

 同時に、選挙もカネも、これから官邸が主導権を握る。党から無用の横槍は許さない。たったこれだけで、小沢氏は丸裸になる」(仙谷氏周辺)

 カネのない小沢氏には、何もできない。そのことを一番よく分かっているのも小沢氏だ。だからこそ、小沢氏はあれだけカネに執着してきたわけだが、そのカネを、今度は反小沢グループが掌握したのだ。

「もともと政府側は、前原誠司国交相や岡田克也外相ほか、反小沢・脱小沢系の議員ばかり。今後は、官邸そのものが"小沢追放"の秘密会議の場となる。昨日まで小沢氏が自由に使っていたカネは、これから小沢潰しのために使われる。小沢氏が退場勧告を受けた際、呻くようにして苦しげな表情を浮かべたのも、当然です」(全国紙政治部記者)

 そして仙谷氏は、枝野氏には別のある因果を含め、幹事長に送り出したという。

「小沢氏が幹事長時代に使ったカネの流れを、徹底的に洗え、という指示です。少しでも不正なカネの流れがあれば、小沢氏の政治生命を完全に断つことができる。仙谷氏は、小沢一派の息の根を止めるまで、追及の手を緩めないつもりでいる」(民主党幹部)

 少なくとも、菅政権の滑り出しは上々だった。発足直後の世論調査で、支持率は66%(毎日新聞)。10%台に低迷した前政権から跳ね上がっている。

 政党支持率も、一時は自民党に逆転されていたが、菅政権は自民党にトリプルスコアに近い差(民主38%、自民14%=朝日新聞)をつけており、苦戦が伝えられた予想を覆し、参院選で圧勝する可能性も出てきた。

「菅政権は、鳩山政権の失敗の上に立ってできた政権です。まずは失敗の分析から始めなければならない。鳩山政権は理想論を語り失敗しましたが、今後は、地に足が着いた、安定的な政権運営が求められています」(渡辺周・総務副大臣)

 新政権が高い支持を得ているのは、あらためて言うまでもなく、「反小沢」「脱小沢」路線を明確にしたことが大きい。仙谷氏は、枝野氏や前原氏ら反小沢系議員の"総元締"的な存在であり、

「小沢派の議員など、全員落選してしまえばいい」

 とまで語っていたほどの、急先鋒。その仙谷氏を懐刀に迎えることで、菅首相は「小沢外し政権」を作り上げたことを、国民に強くアピールしたのだ。

 鳩山前政権下で、小沢氏によって逼塞させられていた仙谷氏らは、息をひそめるようにして、この機会をずっと窺っていた。そして、小沢氏退場によって機が熟したと見るや、その影響力を根絶すべく、一気に追い討ちをかけ始めたのだ。

 鳩山氏が両院議員総会で辞任を表明した6月2日の夜。彼らは素早く行動を起こした。菅首相はすでに、代表選に勝って総理に就任することを前提に、定宿にしている東京・赤坂のホテルニューオータニの一室で、仙谷氏、枝野氏と向き合っていた。「小沢追放会議」の始まりだ。

 仙谷氏らはのっけから、

「この際、徹底した人事を断行して、党を再構築しようじゃないか」

「政治とカネの問題で、しっかりとけじめをつけてほしい」

 と、小沢切りを菅首相に強く迫り、了承を取り付けた。これは、前原国交相、岡田外相、野田佳彦財務相ら、反小沢派の「七奉行」が、菅氏を総理に担ぐ上での条件でもあった。

 菅首相はこれまで、小沢派にも、反小沢派にも属してこなかった。小沢氏とは折に触れ連絡を取り合い、つかず離れずの絶妙な遊泳術で党内の地位を保ってきた。

 ただそれはすべて、「首相になる」という菅氏自身の野望のため。徹底した現実主義者としても知られる菅氏は、反小沢の流れに乗れば総理の座が転がり込んでくると見るや、小沢氏への友好的態度をかなぐり捨て、即座に小沢潰しの行動に踏み切ったのである。

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