「いつ辞めるか」だけが焦点のレームダック政権
土俵際で生き残った菅首相「不信任案で勝ったのは誰か

〔PHOTO〕gettyimages

 菅直人首相が土俵際一杯にまで追い詰められながら、ひとまず生き残った。菅のことだから粘るだろうが、政権がレームダック(死に体)状態に陥ったのはあきらかだ。これから、ポスト菅をめぐる政争が与野党を巻き込んで激しくなる。

 今回の事態を星取り表にすれば、次のようになる。

 まず、自民党はじめ野党が勝ったとは言えない。むしろ負けに近い。菅に退陣表明させたとはいえ時期は明示させられず、解釈に余地が残っている。完全な玉虫色決着である。野党は菅を即時退陣に追い込んで、できれば連立で次の政権をつくるという目標を達成できなかった。

 次に、小沢一郎元民主党代表と鳩山由紀夫元首相。彼らはひとまず勝った。

 菅を即時退陣には追い込めなかったが、レームダック状態にしたうえ、自分たちは与党内にとどまった。

 内閣不信任案を可決成立させたとしても、結果的に自分たちが離党に追い込まれてしまえば、新党を結成したところで、政権づくりにはかかわれない。子ども手当をはじめとする「ばらまき4K政策」をよしとする勢力は小沢グループだけだ。そんな小沢と手を組んで連立政権を考える党派はないからだ。

 永田町の「異端児集団」になりかねなかった離党・分裂を避けて、政権政党内にとどまれた。かつ、菅からは曲がりなりにも退陣の約束を取り付けたのだから、文句はないだろう。

 仙谷由人官房副長官をはじめとする政権内実権派も勝った。

 退陣表明で菅の求心力は決定的に失われた。水面下で次の総理候補選びに動いたとしても、むしろ「民主党政権の継続を目指す」という大義名分すら唱えることができる。大手を振ってとまでは言えないが、半ば公然とポスト菅に動ける状態になった。

 以上を前提に、今後の展開を考えてみる。

 菅はなんとか巻き返しを図ろうとするだろう。だが、それは難しい。首相がいったん「若い人に責任を引き継ぐ」と口に出してしまったのだから、居座ろうとすれば醜態と映るだけだ。

 国際的にも「菅が退陣表明」と広まってしまった。米国だって、死に体政権をまともに相手にしない。米軍普天間飛行場移設問題の解決など夢のまた夢だ。9月の訪米は完全に吹っ飛んだ。

民主党はいよいよ人材不足

 自民党の谷垣禎一総裁は苦しい。

 菅を即時退陣に追い込めなかった責任問題が噴出する可能性がある。ポスト菅の政権づくりでも、小沢が民主党に残ってしまった以上、民主党は独力で首班指名選挙を勝てる議席を残している。民主党が次の政権をつくるのに、なにも谷垣自民党の力を借りる必要はないのだ。

 谷垣は小沢の力を借りて菅を退陣させ、その勢いで「菅抜き小沢抜きの大連立政権」を樹立するのが基本戦略だった。ところが菅は当面居座り、小沢も残った。それでは政権づくりにかかわれない。

 自民党内で谷垣を応援し連立政権をもくろんでいたのは、長老グループである。連立でも何でもいいから、とにかく政権内に潜り込まなくては復興予算編成にもかかわれない。それでは地元で大きな顔をできないのだ。

 連立の夢は泡と消えてしまった。その反動で批判は谷垣に向かう。

 政策対応も難しい。2次補正の編成で自民党が政府案に抵抗すれば、菅に居座る口実を与えてしまう。といって協力すれば、菅の辞任を促す方向には作用するが、独自色が薄くなる。予算審議に抵抗しても協力しても、得点を稼げないジレンマに陥ってしまうのだ。

 政権はとりあえず続いても、先行きは視界不良である。

 2次補正予算の歳出項目は編成できても、財源問題がのしかかる。増税反対勢力は自民党にも民主党にもいる。財源をどうするかが焦点である。菅は編成が終われば辞めるのか、それとも成立しなければ辞めないのか。「いつ辞めるのか」問題は政権が続く限り、ずっとつきまとう。

 東京電力の賠償問題は当面、棚上げではないか。それでなくても、銀行の債権放棄をめぐって枝野と与謝野馨経済財政相の間で激しいさや当てが起きている。辞任を口にした菅が閣内を丸く収める力は残っていない。

 そして、ポスト菅を狙う面々はどうか。

 仙谷たち党内実権派は菅の退陣後も影響力を発揮できる首相候補づくりに精を出す。筆頭は枝野幸男官房長官ではないか。仙谷は最近、枝野を首相候補の一番手とリップサービスしている。枝野は微妙な立場だ。菅を支える官房長官でありながら、野心があるなら次をうかがう格好になる。

 岡田克也幹事長は今回、もっとも強硬な反小沢姿勢を鮮明にした。小沢が党を出て行ったならともかく、党内に残ってしまった以上、小沢グループを敵に回したまま、ポスト菅をうかがうのは厳しい。はっきりした敵がいるというだけでマイナスに働く。

 前原は小沢と渡部恒三最高顧問の誕生会に出席するなど、きわどい局面で小沢支持と反小沢の間で両天秤にかけた。だが、そうした姿勢がプラスになるとは限らない。

 野田佳彦財務相もポスト菅で名前が挙がる。だが、野田はあまりに財務省べったりだ。野田では脱官僚も政治主導もありえない。政権を獲ったとして、いったい何を旗に掲げるのか。まさか財務官僚が用意した旗で政治をするわけではあるまい。

 自民党との連立を前提に元自民党の鹿野道彦農林水産相、元民社党の川端達夫前文部科学相といった名前も一部でとりざたされた。だが、小沢が党に残ったいまとなっては、それも難しい。

 民主党もいよいよ人材不足である。

 (文中敬称略)


 

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