「沖縄式交渉術」が分からなければ菅直人政権でも「普天間問題」は解決しない
東京の政治エリートは楽観し過ぎている

 菅直人新内閣の成立によって、内閣と民主党への支持率はV字型に回復した。これを国民世論がムードに流されやすいからと見るのは間違いだ。去年8月30日で民主党への政権交代を選択した国民は変化を求めている。

「自公政権が続けば、日本はこれからじり貧になる。民主党政権になれば、とにかく変化が生じる。その結果が良くなるか悪くなるかはわからない。しかし、とりあえず、しばらくの期間、民主党に機会を与えよう」

 というのが、今回の政権交代の底に流れる国民の基本認識であると筆者は見ている。

 鳩山由紀夫総理(本稿における肩書きは出来事が起きた当時のものとする)と小沢一郎民主党幹事長は、政治家が官僚を指揮する構造転換を本気で行おうとした。これがかつてない危機意識を霞が関(中央官庁)の官僚にもたせた。

 小鳩政権が「サブスタンス(政策の実質的内容)に通暁せず、無知蒙昧な国民に迎合する民主党のポピュリスト政治家が国家の支配者になったら、日本がダメになる」という官僚の集合的無意識を刺激したのである。

 ここで、大活躍したのが検察官僚と外務官僚だ。財務官僚、外務官僚、検察官僚は「霞が関村」で、偏差値が特に高い秀才集団である。それだからこそ、「われわれを抜きにして日本国家は存立し得ない」という強い主観的な使命感をもっている。

 検察官僚は、「社会をきれいにしたい」という欲望をもっている。きれい好きの検察官僚の職業的良心に照らして観察すると、鳩山も小沢も自民党の旧来型政治家と変わらないくらい不潔な存在に見える。

 そこで、特捜官僚(東京地方検察庁の検察官)が、「天に代わりて不義を討つ」と旧陸軍青年将校のような気迫で、小鳩の腐敗を追及した。そして小鳩政権打倒に大きな貢献をした。

 さて太平洋戦争に敗北した後、日本が生き残るために米国との同盟が不可欠になった。日米安保条約という名称であるが、その本質は軍事同盟だ。外務官僚は、「外国語に堪能で、国際情勢と国際法に通暁したエリートであるわれわれにしか、日米同盟を維持することはできない」という信念をもっている。

 そして、外交の素人である政治家が、日米同盟のサブスタンスに関与すると、天が落ちてきて日本国家が崩壊するという形而上的恐怖を抱いている。

 鳩山総理は外務官僚の「正しい指導」に耳を傾けない宇宙人だ。宇宙人による日本国家崩壊を防ぐために、ありとあらゆる手段を用いて、外務官僚が鳩山総理を包囲した。岡田克也外務大臣、北澤俊美防衛大臣、平野博文内閣官房長官は、外務官僚と認識を共有する「かわいい政治家」に変貌した。

 しかし、米国の名門スタンフォード大学で博士号をとった知識人の鳩山はなかなか外務官僚の言うことを聞かない。そこで外務官僚は、米国からの圧力、外務官僚と共通の視座をもつ記者たちの応援を得ながら、真綿で首を絞めるように鳩山包囲網を構築していった。

 ここで漬け物樽を想像してみよう。民主党という漬け物樽の中蓋の上に、検察官僚が「政治とカネ」という大きな石、外務官僚が、「普天間問題」という大きくて重い石を置いた。小鳩政権が崩壊したので、その石が取り去られた。そのことによって、中蓋が再び浮き上がった。国民の変化への希望はまだ消えていない。

 それだから菅政権の支持率が60~70%という「常態」に戻ったのである。

沖縄戦体験者が負傷すれば抗議活動は止められない

 日本の安全保障にとって普天間問題が死活的に重要ならば、7月11日の参議院議員選挙における重要な争点になるはずだ。

 なぜなら5月28日の日米合意に従って、8月31日までに、< 普天間飛行場のできる限り速やかな返還を実現するために、閣僚は、代替の施設の位置、配置及び工法に関する専門家による検討を速やかに(いかなる場合でも2010年8月末日までに) 完了させ(る)>ならば、沖縄が猛反発し、沖縄にあるすべての米軍基地に対する地元住民の感情が急速に悪化するからだ。

 さらにその後、工事を強行しようとすれば、座り込みなどの抗議行動が起きる。警察力(機動隊)を用いて住民を排除しようとすると、小競り合いが起き、その過程で負傷者が発生する。座り込み抗議に参加している沖縄戦体験をもつ80代の高齢者が負傷するような事態になれば、保革の壁を超えた文字通り「島ぐるみ」の抗議活動が起きる。

 そうなると、米軍基地が住民の敵意に囲まれ、日米同盟の機能が低下する。

 このような状態に陥ることを避けるためには、日米合意の見直しが不可欠だ。当然、参院選の重要争点になるはずである。しかし、近未来に発生する危機に関する東京の政治エリート(国会議員と官僚)の感覚はきわめて鈍い。

 恐らく、沖縄が要求を突きつけるような形で交渉を行わないことの意味を誤解しているため、東京の政治エリートは根拠薄弱な「楽観論」をもってしまっているのだと思う。6月15日、沖縄県の仲井真弘多知事が上京し、菅直人総理と会談した。朝日新聞の報道を見てみよう。

< 菅首相、沖縄知事と会談 日米合意踏襲と負担軽減伝える

 菅直人首相は15日午前、首相官邸で沖縄県の仲井真弘多知事と初めて会談した。首相は、沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設をまとめた先の日米合意を踏襲するとともに、沖縄の負担軽減に取り組む考えを表明。

 知事は「『少なくとも県外』と言った民主党に対する県民の期待は失望に変わった。日米合意は遺憾で、(辺野古移設の)実現は極めて厳しい」と伝えた。

 首相は、23日の沖縄慰霊の日に沖縄県を訪問する意向を示し、仲井真氏もこれを歓迎した。また、仲井真氏が普天間移設とは別に米兵が関係する事件事故についても「大幅な軽減に取り組んでほしい」と要望したのに対し、首相は応じる意向を示したという。

 約30分間の会談には仙谷由人官房長官らも同席。首相が応接室に先に入り知事を出迎える配慮を見せた。

 仲井真氏は会談後、「普天間は危険な飛行場。そのまま置いておくのはおかしい。なるべく早く返還してもらうことが元々のスタートだ。政府が責任を持ってきちんと解決してもらうのが筋だが、どうまとめていこうとしているのか、よく分からない」と不満を語った。 >
(6月15日asahi.com)

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