●最新の治療にはリスクがある
●手術中の予期せぬ出血
●高齢患者のがん手術
●余命の告知・・・「正解はない、しかし正解しかない」
生死を左右する決断
「私の専門である大腸がんの治療は手術で取り除くことが第一。もしくは放射線と化学療法がうまく効いてくれれば助かる可能性が出てくる。でも、放射線治療には不確かな部分がまだあります。だからがんが再発したら、何とかして手術で治してあげたいと思うのですが、ただ再発の場合の手術は大変難しく、リスクを伴います。

写真上から、荏原病院の神経内科医長・長尾毅彦医師、都立駒込病院の緩和ケア科医長・田中桂子医師。いずれもその分野のスペシャリストと呼ばれる名医だそうすると、やはり医者は逡巡するんですよ。『切除できないかもしれない、化学療法にしようか、放射線がいいかもしれない』と、ぐるぐる頭の中で回っているんです。
そんなとき"スーパードクター"なら迷うことはないのかもしれない。でも私みたいな普通の医者は、とくに手術中、切除か撤退かを迫られたとき、本当に孤独なんですよ」
こう明かすのは、北里大学病院(神奈川県相模原市)外科教授・渡邊昌彦医師。大腸がんに対して、体にやさしい低侵襲な腹腔鏡手術の道を日本で最初に切り開いたパイオニアだ。そんな「がんの名医」である渡邊医師ですら、治療法について迷うことがあるのだ。
医療は100%の正解がない世界である。にもかかわらず患者やその家族からは100%を求められる。そして医者は患者の生命を左右する判断を迫られる。そんな素振りを患者に見せることはできないが、人間である以上、医者も迷う。
では、医者はどんなときに考え込むのか。名医たちに本音を聞いた。
新しい治療法の選択で迷う
「脳卒中の場合、発症後、遅くとも3時間以内にしか使えない薬を使うか、使わないか。そこが医者としては一番悩むところです」
東京都保健医療公社・荏原病院(大田区)神経内科医長・長尾毅彦医師はそう話す。長尾医師は、脳卒中と認知症の患者の両方を診る神経内科医で、脳梗塞の治療では、新薬である「t-PA」という血栓溶解剤を使う血栓溶解療法のスペシャリストだ。
その長尾医師でも考え込むことがあるという。「t-PA」は脳梗塞に時として劇的な効果をもたらす薬だが、適応条件に当てはまらない患者に投薬すれば、脳出血を引き起こし、死を招く危険があるからだ。
「『t-PA』治療というのは命を助けるというより、脳の機能を助けるものです。この薬が使用できないと判断した患者に対しては、次は命を守るための治療を施します。
『t-PA』を使うことによって、患者さんが亡くなる危険性がある。この薬を使わなければ生き延びられたかもしれないのに、使ったことで命を奪うこともあるのですから、使用するかどうかは、医師にとって究極の選択です。しかも、その判断を極端なことを言えば、10分間でしなければいけない」(長尾医師)
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