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隠されていた決定的ミス 東電はベントの方法を間違った!
MIT(マサチューセッツ工科大学)と
アレバ社が指摘
自宅前で記者に班目春樹氏は「(爆発直後に)燃料は溶けているだろうけど、全量溶けているとは思ってなかった」と語った(5月22日)〔PHOTO〕片野茂樹

「班目原子力安全委員長vs.政府の醜いバトル」「1・2・3号機ともにメルトダウンしていた事実」・・・国民の安全より情報隠蔽と責任逃れを優先した〝罪の数々〟---だが、まだ終わりではなかった。

「時間はちゃんとは覚えていませんが、その日(3月12日)の夕方6時過ぎくらいだったと思います。(福島第一原子力発電所1号機で)水素爆発があった後、当時は水素爆発だとおぼろげに認識していたくらいですが、私から『海水注入を是非してくれ』と言い出したのは確かです。

『海水注入をするに当たって問題点は何か。爆発みたいなことも起こっているようだから最悪の場合も考えて検討してくれ』というので、塩を入れると流れが悪くなるとか言いました。その中で総理から『再臨界の可能性はあるのか』と聞かれ、私は『再臨界の可能性はもちろんゼロではないです』と答えたのは確かです。実はそれだけの話なんです」

菅首相(右)と枝野官房長官。国会では「言った、言わない」の追及ばかり、虚しく繰り返される(5月23日)〔PHOTO〕鬼怒川 毅

 5月22日午後7時過ぎ、東京・文京区の自宅にタクシーで帰宅した原子力安全委員会の班目(まだらめ)春樹委員長(63)は、テンションが高かった。この日の朝、細野豪志首相補佐官(39)は『新報道2001』(フジテレビ系)に出演し、1号機への海水注入が3月12日午後7時25分~8時20分までの約55分間、中断された原因をめぐって、班目氏が菅直人首相(64)に「海水を注入した場合、再臨界の危険性がある」と助言した記憶があると発言していた。

 同日、枝野幸男官房長官(46)も同じく、班目氏の助言があった旨、発言をしている。

「細野補佐官に訂正を受け入れてもらった」と意気揚々と語った班目氏のご主張は、要は「言った、言わない」の話にケリがついたということだ。それより、その後に彼が続けた「持論」のほうに、本誌記者は驚きを隠せなかった。

「だいたい私は再臨界は危険だと思っていません。熱的に見たら崩壊熱(注1)とか化学反応による熱のほうがずっと大きく、そもそも原子力というものは臨界になるものです。再臨界=大変なこと、という認識はなしに『再臨界の可能性はゼロではありません』と申し上げた」

「再臨界している可能性は、どの炉もあると思います。だけど実際には、崩壊熱がすごいんですね。これを冷やさないといけない。ジルコニウムという被覆管(注2)と水とが反応した科学発熱も相当なものです。それに比べたら再臨界したからといって、ちょっと中性子が出てくるだけで、熱的には微々たるものです。

 皆さんは再臨界すると核爆発を起こすと想像されるみたいですが、軽水炉のシステムではきれいに燃料棒が並び、その間に水がある状態で初めて臨界に達する。これに対して核爆弾はウラン235を濃縮し、九十数パーセントにして、それを固める。核爆発と再臨界とはまったく違うものなんです。再臨界が起こったかどうかは、学問的には面白いと思いますよ」

「もう笑い話だからどうでもいいんですけど、細野補佐官も『再臨界の可能性』と『再臨界の危険性』という言葉が、どれだけ違うか、どうもあまりよくお分かりになっていなかったみたいですね」

〝目隠しして車を運転〟

 東京大学工学部附属原子力工学研究施設の教授を務めた班目氏の見解は、正しいのだろうか。本誌には放言に聞こえる。元「バブコック日立」社員として福島第一原発の設計に携わったサイエンスライターの田中三彦氏は、こう指摘する。

「班目さんの発言で唯一、正しいのは、核爆発と再臨界は違うという一点です。制御棒が溶けているから、再臨界が始まればコントロールできず、再臨界によって再び発生した水素が圧力容器から格納容器に流出して大爆発を引き起こしかねないのです。班目さんは、正常な原子炉の中で起きている臨界と、アクシデントによる再臨界が同じであるかのように表現し、専門知識のない記者を煙に巻いているとしか思えません」

 班目氏の物の言い方は、「原発存続」を前提とする政府と東電が、3・11以降、国民に向けて繰り返してきた「事態の過小評価」と重なる。本誌は、爆発事故発生直後から「メルトダウン(炉心溶融)」という単語を使って、あり得る危険性について指摘してきたが、1号機の炉心の大半が溶融した=メルトダウンが起きていたことを、東電が初めて認めたのが5月15日。続けて24日に「2、3号機でも核燃料の大半が融け落ちて、原子炉の底に溜まっている」と公表した。事故から2ヵ月以上経ってようやくである(次ページの一覧表参照)。

 元東芝で原子炉格納容器の設計に関わってきた後藤政志氏は、5月23日の参院行政監視委員会に参考人として出席した。その後藤氏が、政府・東電の姿勢を〝後出しジャンケン〟と厳しく断じる。

「最初の東電の発表では、『燃料棒は一部露出しているが、だいたい水が入っているからメルトダウンが起こっているはずがない。一部、燃料が損傷しているかもしれない』という表現だったと記憶しています。あの時、燃料棒が長時間にわたって露出しているということは、相当な損傷があると私は考えました。

(注1)核分裂で生じた核分裂生成物などの核種は、放射線を出して別の原子核に変わるが、この放射性崩壊に伴って発生する熱
(注2)核燃料となるウランなどのペレットを密封するための金属製の管

 注水しても圧力容器内の水位に変化(上昇)が見られなかったので、水位計がおかしいか、容器に穴が開いているか、その両方を疑ったのです。今になって東電がメルトダウンを認めたということは、これまでは何も分からないまま闇雲に水を入れて冷却していたということです。目隠しして車を運転していたことになりますね」

 放射性物質を含む蒸気を外部に放出して、原子炉格納容器の圧力を下げる「ベント」の判断について、東京電力は5月22日になって初めて「爆発の13時間前には、運転手順書にあるベントを行う圧力近くまで達していた」と発表した(実際にベントを行ったのは爆発の5時間半前)。

本誌が入手した仏「アレバ」の資料。原子力最大手の同社が、根拠もなく「東電のベント方法」を書いたとは思えないが

 これから提示する疑惑は、ベントの「時間について」ではなく、「方法について」である。それを認めれば原発を稼働させる電力会社が、素人同然の判断で水素爆発を引き起こし、広く放射性物質をまき散らした事実が確定する。

 本誌が入手したのは、世界最大規模の原子力企業「アレバ」(仏)が、4月に米国で行った、招待者だけが参加できる限定的な報告会で配られた資料である(右写真)。アレバの資料を、前出の田中三彦氏に読み解いてもらった。

「水素爆発がオペレーションフロア(注3)で起きたことは判明していますが、この資料には〈ベントした放射性物質を含んだ水蒸気をオペレーションフロアに向けて吐き出した〉とあります。東電は、水蒸気をフィルターにかけて煙突から外に出した旨の説明をしていたはず。

 私も驚いて、間接的に東電に確認してもらうと、『何かの間違いです』との回答でした。しかし、原子力の専門家集団であるアレバが、間違いなくそう書いている。資料のとおり、3月12日午後2時半に建屋内でベントを行い、3時36分に爆発したとすると、辻褄は合うんです」

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