警視庁捜査二課が参考人聴取を始めた木村剛「日本振興銀行」の検査忌避
「小泉改革の旗手」は引退状態

「こんなに早く、警視庁から呼び出しがかかるとは思っていませんでした。隠すつもりはありません。知っていることはすべてお話したつもりです」

 不安を拭えぬ表情で、こう語るのは日本振興銀行(振興銀)の関係者である。

 まだ参考人聴取の段階だが、警視庁から聞かれたのは金融庁検査の際の「検査忌避」について。金融庁が振興銀に対して一部業務停止を含む厳しい行政処分を下したのは5月27日。その直後、警視庁捜査二課の捜査が始まったのだから、銀行関係者とすれば、「行政処分」のショックも冷めやらぬうちに、ということになる。

 おそらく、金融庁は行政処分を検討する一方で、捜査当局に刑事告発を含む相談をしていたはずだ。そうでなければ、処分と同時の参考人聴取は考えられない。現に、金融庁関係者のこんな証言もある。

「振興銀の取引先などから内部告発がかなり寄せられており、行政レベルで対処できる範囲を超えていた。だから検査局は、東京地検特捜部財政経済班に"相談"していた。

 おそらく警視庁捜査は、検察からの指示を受けてのもの。将来的には、合同捜査か警視庁捜査を引き受ける形で、特捜部が乗り出してくるのではないか」

 銀行を検察が狙うというのは、6年前のUFJ銀行(当時)以来である。その時も「検査忌避」が入り口だった。なぜ振興銀は金融当局に非協力的だったのか――。

 振興銀は、金融コンサルタントで金融庁元顧問の木村剛氏が、設立に関与した銀行である。

 日本には、健全な企業に担保をしっかりと取って低利で貸す銀行か、信用のない企業に高利で貸すノンバンクの二つの形態の金融機関しかない。私は、一時的に業績が悪化した企業に、ミドルリスク・ミドルリターンで貸す銀行を立ち上げる――。

 木村氏は設立の狙いをこう語り、その思いは、当時、上梓した『金融維新』(アスコム)などでも十分に伝わってくる。ただ、現実は厳しかった。

 貸すに値する企業がない・・・。

 それを突破する手段として木村氏が選んだのが、消費者ローン、商工ローンなどノンバンクとの提携。具体的には、ノンバンクに「卸し金融」をやるとともに、ノンバンクの顧客を自らの融資先として開拓する戦略だった。

 その結果、ここ数年で預金量、貸付金ともに急増、思惑通りに「ミドルリスク・ミドルリターンの銀行」という立ち位置を確かなものにした。しかし、その過程で起きた「行き過ぎ」を金融庁は危惧した。

 前述の金融庁関係者がいう。

「振興銀は、中小企業振興ネットワークという閉じられた空間で株式を持ち合い、融資と保証を行い、握り合っている。そのため外部からは内実がわからない。そうしたなか、SFCG(旧商工ファンド)の営業債権二重売却の問題が発生、徹底的に検査する必要性が生じた」

 SFCG問題とは、営業債権をSFCGが信託銀行と振興銀に二重売りしていた問題だ。振興銀分のうち約700億円は「後順位」で、これが振興銀の経営に影を落としている。

 金融庁は昨年6月、検査を開始した。だが、非協力的な振興銀の"抵抗"にあって、検査は遅々として進まない。結局、メガバンクさえ4ヵ月で終了する検査が10ヵ月近くに及んだ。しかも5月27日に出された行政処分は、4ヵ月の一部業務停止を含む厳しいものだった。

 振興銀が、取引先の企業を緩やかな共同体に巻き込んだのが中小企業振興ネットワークである。20社近い上場企業を含め160社近くが参加、振興銀からの融資で事業を支えられ、グループ内の有機的な結びつきで事業拡張を図っている。

 それだけに、中核となる振興銀の業務停止は衝撃的だった。

「資金のロールオーバー(借り換え)には応じてもらえるものの、1億円以上の新規融資や債権買い取り業務は9月末までストップです。資金繰りの悪化で倒産する企業も出てくるでしょう」(ネットワーク企業の代表)

 振興銀がネットワークを組織してまだ2年だが、「業績不振企業の駆け込み寺」となっているだけに、その輪はあっという間に広がった。今では160社近いグループ企業の従業員数は3万5000人にも達する。

意図的に削除された電子メール

 木村氏には、それだけの企業群を組織、支えてきたという自負がある。また、日本銀行OB、金融庁元顧問としての経験から、日本の金融行政が、「中小零細企業に目を向けないメガバンクを主体とする金融秩序の維持」であることに不満を募らせていた。

 それが振興銀の立ち上げにつながったのだが、その自分の銀行運営に、あれこれと注文をつける金融庁検査が不満だった。それが資料を出さず、聞き取りにも積極的には応じないという姿勢となり、結局、金融庁の怒りを買った。

 行政処分の「処分理由」に、こう記されていた。

「当行の特定の役職員らは、検査資料として検査官に業務メールを提出するにあたって、事前にメール保管先サーバーに接続し、同サーバー内に保管されていた電子メール群の中から、特定の電子メールを意図的に削除されたものと認められた」

 その削除メールのなかには、貸金業者からの債権買い取りに関する出資法違反の疑いのあるものや、親密先企業の管理実態等が確認されるものが含まれていたという。事実なら明確な銀行法違反の検査忌避。

 木村氏は、金融庁の強い姿勢を感じて、処分の前の5月10日、会長を退任、銀行経営から身を引き、自身のブログも閉鎖するなど「恭順の意」を示している。

 しかし金融庁から捜査当局への事実上の告発はなされた。金融部門における「小泉改革」の担い手が捜査当局に狙われるという、異例の事態となっている。

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