佐藤優×鈴木琢磨
朝鮮戦争再び、その時期と可能性

すべては予告されていた

金正日は、本気で戦争を仕掛けようとしているのか―その真意を解くカギは、北朝鮮の「戦史」にあった。インテリジェンスの世界に精通する佐藤氏と気鋭のコリア・ウォッチャー鈴木氏の白熱対論。

魚雷攻撃には理由があった

佐藤 朝鮮問題の専門家として知られる鈴木さんの分析手法は、日本のほかの分析家のそれとはかなり違う。

佐藤優(さとう・まさる) '60年生まれ。同志社大卒業後、外務省に入省し、主任分析官等として活躍。'02年「国策捜査」によって逮捕された後、旺盛な執筆活動によって論壇の中心人物となる。著書に『国家の罠』『私のマルクス』『自壊する帝国』ほか多数

 歴史的事実を積み上げ、統合して俯瞰する、いわば"積分"型の分析家です。

 国際情勢を分析するとき、積分法でやったほうがいい場合と、事実の微細なディテールに踏み込んでいく微分法でやったほうがいい場合とがありますが、北朝鮮は積分法のほうが絶対にいい。

 なぜ外国政府関係者を含むいろんな人が鈴木さんに話を聞きに来るのか、そして北朝鮮当局も鈴木さんの存在を重視しているのかというと、それは、こうした分析方法を実践している日本で数少ない人だからです。

 韓国海軍の哨戒艇が魚雷攻撃を受け、沈没した事件が3月にありましたが、韓国政府は遺留物などを調査した結果、北朝鮮の犯行と断定し、双方の批判合戦が続いています。

 鈴木さんは現在の朝鮮半島情勢をどう分析されていますか。

鈴木 私もあの事件は北朝鮮の仕業と見ていますが、ひとつナゾとして残ったのは、なぜ魚雷を使った攻撃を仕掛けたのかということなんです。沈没現場は北が韓国の領有権を認めていない境界水域で起こっているのだから、北としては警告射撃をした後、砲撃で撃沈する手段もあっただろうし、テロという奥の手だって使えたはずです。

 なぜ魚雷を使ったかについては、いまのところ納得できる説明がなされていない。

鈴木琢磨(すずき・たくま) '59年生まれ。大阪外国語大学朝鮮語学科を卒業後、毎日新聞社入社。現在、毎日新聞夕刊編集部編集委員。『サンデー毎日』記者時代から北朝鮮取材を続けている。著書に『金正日と高英姫』『テポドンを抱いた金正日』など

佐藤 ある軍事専門家によると、現場海域は非常に海底が浅く、魚雷を発射した潜水艦の乗組員は練度の高い精鋭部隊である可能性が高い。韓国側は、この海域で魚雷を打ち込まれるのは想定外だったのではないでしょうか。

鈴木 実はこの魚雷攻撃の謎を解くカギが、『朝鮮人民の正義の祖国解放戦争史』という本の中にあるんです。これは朝鮮戦争後(1961年)に平壌で出版された朝鮮戦争史で、日本語版まで刊行されていることでもわかるとおり世界中で展開された北の一大プロパガンダのテキストだった。

 この本の中で、朝鮮戦争の際の北朝鮮海軍の魚雷艇隊の戦果について< わずか4隻の魚雷艇をもって敵の重巡洋艦1隻を撃沈し、軽巡洋艦1隻を撃破 >したと記し、< 世界の海戦史上、稀なる勲功があった >と大絶賛している。つまり、北の軍部、国防委員会のメンバーにとって朝鮮戦争時の輝かしい勲功のイメージがあるんです。朝鮮戦争史を徹底的に研究している金正日が、それを知らないわけがない。