雑誌
崩れた"一人勝ち神話" ヤマダ電機の 「真実」
創業者・山田昇会長も認めた、
家電売り上げNo.1企業の 「知られざる憂鬱」
自ら運転して休日出社した山田昇会長。本誌の直撃に雄弁に答えた〔PHOTO〕片野茂樹

 売上高2兆円を突破したヤマダ電機。その成長神話に一見翳りはない。しかし、舞台裏には「次は3兆円達成」と目標の上積みを余儀なくされる創業者の苦悩がにじんでいた・・・

「正直に申し上げて、ヤマダ電機が新宿にオープンしてから、こちらの売り上げは順調に伸びております」

 ヨドバシカメラ執行役員で、新宿西口本店の店長も務める竹下雅浩氏は明快に語った。

歌舞伎町の真ん前を「家電戦争」の舞台に変えたLABI新宿東口館〔PHOTO〕香川貴宏

 4月16日、JR新宿駅東口の直近、アジア最大の歓楽街・歌舞伎町一番街の真ん前にヤマダ電機(本社・群馬県高崎市、一宮忠男社長兼COO)が、「LABI新宿東口館」(地上9階・地下2階、売り場面積約8000㎡)をオープンした。

 1ヵ月経っての"戦況"をレポートするため、本誌は"ライバル"ヨドバシカメラにインタビューを申し入れたのだ。

 都心において、「ヤマダ電機の大規模店舗開業→既存の家電量販店と価格戦争」という図式は、消費者の間で恒例行事となった。

 LABI新宿東口館も、'67(昭和42)年以降、新宿を本拠地に展開してきたヨドバシカメラに対して突きつけた"果たし状"に他ならない。

 '09年10月に開業した東京・池袋の「LABI1 日本総本店 池袋」も、ビックカメラの牙城である池袋駅前にわざわざ出店した。おかげで、今や池袋は「日本最大の家電戦争の舞台」として名を馳せている。

ヨドバシカメラ新宿西口本店の裏で、ヤマダ電機は新店舗を建設中〔PHOTO〕香川貴宏

 数字を見る限り、ヤマダ電機の拡大戦略は当たり続けていると言えよう。いや、「ヤマダ電機の一人勝ち」と言って差し支えない。'10年3月期連結決算の売上高は前期比7.7%増の2兆161億円で、初めて2兆円を突破した。家電量販店業界で2位のエディオン(デオデオや石丸電気を展開)の、同じ3月期連結決算の売上高が約8200億円。

 ヤマダ電機は後続に倍以上の差を付けた独走状態にある。ちなみに、非上場のヨドバシカメラは比較が難しいが'09年3月期の公表実績値で7012億円、ビックカメラは'09年9月〜'10年2月期(上期)で2984億円である。

己の足を喰うタコの如く

 しかし、である。ヨドバシカメラの竹下店長が冒頭で語った発言を、単なる強がりや負け惜しみと斬って捨てることはできない。それは、ある家電量販店の販売担当者が本誌に打ち明けた、次のような実情があるからだ。

新宿を牙城とするヨドバシカメラ。新宿西口本店は総本山と言える〔PHOTO〕香川貴宏

「興味深い数字があります。4月に新宿のヤマダがオープンした当初、ヨドバシの売り上げは前年同期比で5割増、5月の連休に入って3割増、その後、だんだんと数字が落ち着きましたが、それでも1〜2割増で推移しているのです。

 ヤマダが"家電戦争"のイメージを作ったことで、新宿に客が集まり、その客がヨドバシカメラに流れたというわけです」

 ヨドバシカメラの竹下店長は「ヤマダ電機に勝つか負けるかで仕事をしているわけではないのですが・・・」と前提を語りながらも、こんな本音をのぞかせた。

「同業他社の集中によって、お客様には『A店に置いてなくても、B店には欲しいものがある』という心理が働くことはあるでしょう。

 ヤマダ電機の出店で、顧客のそうした心理がくすぐられ、ビジネスチャンスが広がったと見ています」

 ヤマダ電機は現在、ヨドバシカメラ新宿西口本店のすぐ裏手に、地上11階・地下4階の新店舗を建設しており、来年4月に完成する予定だ。その動きについても、竹下店長は笑顔で感想を語った。

竹下雅浩店長(右)は"ヤマダ進出"を歓迎している。事実、"新宿戦争"はヨドバシカメラを潤した〔PHOTO〕香川貴宏

「新宿東口に続き、西口も家電を求めるお客様で溢れることになる。早く完成してくれないかなというのが本音です」

 前出の家電量販店の販売担当者によれば、新宿商圏におけるヨドバシカメラの売り上げは年間約1000億円弱、ビックカメラ(東口店と西口店)が約300億〜400億円だという。この販売担当者が語る。

「ヤマダはLABI新宿東口館の売り上げ目標を年間500億〜600億円としていますが、達成できるのかは疑問です。

 現に、熟練した家電量販店関係者がオペレーション(レジの台数・回転率や店員の配置など店舗における経営戦術)を分析した結果、最大でも年間300億円程度という試算が出たという話もあるくらいです」

 ヤマダ電機の大都市出店から見えてくるのは、この企業が持つ致命的な弱点である。池袋商圏を見ると、よく分かる。

 '09年10月に池袋に日本総本店をオープンした当初、計約1200億円と試算された池袋の家電市場において、ヤマダ電機は、日本総本店とビックカメラのすぐ隣で営業する「モバイルドリーム館」(旧LABI池袋)の2店で売上高800億円を見込むと、鼻息荒く発表した。

 日本総本店の開業に先駆け、'07年7月にヤマダ電機はビックカメラの隣にLABI池袋をオープンしている。つまり、ヤマダは池袋商圏で3年あまり"戦争"を継続しているわけだが、ここに、ある家電メーカーが独自調査した、日本総本店がオープンする'09年秋当時の売り上げデータがある。

 これによれば、池袋の家電市場1210億円のうち、ビックカメラが売り上げ810億円を占めたのに対し、LABIは400億円程度に過ぎない。実情は、自ら仕掛けた"戦争"に苦戦していたのだ。

「ヤマダは日本総本店のオープンによって、池袋商圏が計1660億円程度にまで拡大すると踏んでいました。顧客の大量流入が実現したとして、そのうちの半分を取るという意味で800億円という目標売上高を設定したのです」(家電メーカーの販売担当幹部)

 だが、その目論見通りにヤマダの池袋2店の売り上げが伸びたとしても、大幅な利益を上げることにはならないだろう。ヤマダ電機の拡大戦略には、大メディアが指摘しない盲点があるのだ。盲点とは何か。そもそもヤマダ電機は、郊外の幹線道路沿いに開店する「ロードサイド型」と呼ばれる店舗を中心に展開してきた。

 無論、池袋、新宿をターミナル駅としてJR、私鉄が伸びる神奈川、埼玉、千葉にも郊外型店舗は多く存在する。

 '09年12月の第2週、歳末商戦の最中に、ある調査会社が、ヤマダの日本総本店に顧客がどこから来店しているかを調べたレポートを入手した。結果は次の通りだ。

【23区内・・・46%/東京都下・・・8%/埼玉県・・・23%/神奈川県・・・16%/千葉県・・・7%】

「つまり、日本総本店への来店客の半数近くは23区ではなく、他県から来た人たちなのです。JR埼京線や東武東上線が池袋駅に直結しているため、埼玉県からは23%も客が流入している。ヤマダの地域別の売上高を見ると、'08年3月期〜 '09年3月期の1年で、下げ幅の大きい地域として神奈川が約110億円、埼玉でも約10億円下げています」
(調査会社の関係者)

 ヤマダ電機は「郊外店舗は全国制覇した。残すはターミナル駅だ」と、ロードサイド型からレールサイド型(主要駅前に出店)に切り替えたが、結局、タコが己の足を喰うかの如く、これまで地方のヤマダ電機が摑んでいた自前の客を都心部で取り込んでいたというわけだ。

「自社で競合しても、出店する」

 ヤマダ電機は、いまや小売業全体としてもセブン&アイ・ホールディングス、イオンに続く3位につけている。創業者で会長兼CEOである山田昇氏(67)が '73(昭和48)年、松下電器産業(現・パナソニック)の系列店として群馬県前橋市に「ヤマダ電化センター」という"街の電器屋さん"を開業した時、このような展開を想像しただろうか。

5月21日(金)18時半頃、週末の池袋の両店を比較。ビックカメラは店頭も店内も下の写真に比べ賑やかに感じた(上)。同時刻のヤマダ電機「モバイルドリーム館」。日本総本店のテレビ売り場も比べたが、客より店員の数のほうが多く感じた(下)〔PHOTO〕濱崎慎治

 '07年に社長の座を一宮忠男氏に譲ったとはいえ、現在もすべての決定権を山田氏が握っていることに変わりはない。

 付け加えると、一宮氏は山田氏の甥に当たる。これまで挙げてきた家電量販店NO1企業の弱みについて、山田昇会長はどう考えるのか。5月23日、日曜日だというのに本社に出社した山田氏を直撃した。専門誌以外のメディアに登場することの少ない山田氏の本音を以下に記そう。

JR高崎駅に直結するLABI1高崎。本社機能もここに入る〔PHOTO〕片野茂樹(以下同)

山田 「新宿、池袋のライバル店が、ヤマダ電機の進出で集客力をアップさせたことについては把握していました。

 歌舞伎町の近くに当社が進出したことで、主婦、家族連れといった新しい顧客層があのマーケットに流れました。つまり、わが社が新しい市場を作っていることを理解してほしい。

 チェーン店というのは、自社の中で競合があっても出店するのです。そのうえで、自社競合するデメリットを上回る規模の利益を得られる仕組みを作る。

 チェーン店化することで規模の利益を求めているのはユニクロもニトリも同じでしょう。ただ、郊外、都市型店舗ともに言えますが、もはや国内に多くの市場が残されているわけではありません」

 山田氏が示唆した市場規模の限界は、中国進出を念頭に置いている。5月6日には、今後3年間で中国に5店舗出店する計画を発表しており、天津や瀋陽を軸に出店地を調整中だという。中国の家電量販店大手「蘇寧(ソ ネイ)電器」の幹部が、山田会長に接触したとの情報もある。

山田 「中国を選んだのは、アジアでの製造、販売戦略上、地の利があるから。各家電メーカーとも、もの作りをアジアで行っていますからね。例えば瀋陽ですが、1店舗で700人雇用します。今年はすでに中国からの留学生100人を雇用しまして、研修したうえでその留学生たちに幹部候補生として瀋陽に行ってもらいます。オープンは今年の暮れを予定しています」

 ヤマダ電機のガムシャラにも見える店舗展開は、外国人株主の多さから来るとの指摘もある。つまり、高い業績目標を掲げ、それを実現し続けなくては、株主が離れてしまうという事実だ。

山田 「確かにそうです。まだ会社が小さい頃、国内の投資家は相手にしてくれなかった。そんな過去があって、ずっとお付き合いさせていただいている投資家の期待に応えている、というのかな。その時(当時)は・・・力がなかったからね」

山田会長の自宅。敷地面積約1820㎡、建物の床面積約248㎡の豪邸

 山田会長は過去を懐かしむように、途切れがちな言葉をつないだ。作家の村上龍氏が経済人を相手にトークを繰り広げる『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)は5月末に放送200回を迎えるが、それを機に行われた『毎日新聞』のインタビューで、村上氏は印象深い経営者として山田会長の名を挙げ、こう回想している。

< 個人で電器店を経営していた時代を懐かしがる山田会長に「でも、あのころに戻りたいとは思わないでしょう?」と質問した。「懐かしいけど戻りたくはないという答えを期待したが『戻りたい』と言われて、びっくりした」と振り返る > (5月21日付夕刊)

 拡大を止められないヤマダ電機は、泳ぎ続けなくては死ぬとされるマグロに似ている。そして、メディアが創りだした「一人勝ち神話」こそが、ヤマダ以外の家電量販店を潤すとともに、山田昇会長を息つく間もなくさらに走り続けなければならない状況に追い込んでいる。

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