『陽の鳥』 著者:樹林伸
希代のヒットメーカーが挑むメディカル・エンタテインメントを連続公開 VOL.1
『陽の鳥』
著者:樹林伸
講談社
定価1,680(税込)

⇒本を購入する(AMAZON)
◎担当編集者よりの紹介◎

 「生命倫理と家族愛」をテーマに、希代のヒットメーカーが挑むメディカル・エンタテインメント大作!

 関東大学畜産学部の沖田森彦は医師免許を持つ霊長類クローンの研究者。妻を亡くし、高いIQを持つ小学生の息子・有基と二人で暮らしている。1999年、沖田は助手の名嘉城数矢とともに、世界で初めてヒト・クローン胚の樹立に成功していた。科学の歴史に新たに名を刻む、世紀の発見。しかしその発表を間近に控えた矢先、息子の有基が突然の事故に遭い、この世を去ってしまう。

 悲嘆に暮れる沖田が下したある決断---それは、助手の名嘉城と共謀し、生命科学のタブーであるヒト・クローン技術によって、息子を「復活」させることだった・・・!!

プロローグ

 満月に似た顕微鏡の円形の視野を長く見つめていると、宇宙の彼方から地上を眺めているような気持ちになる。シャーレの上で育まれている細胞を、幾億年の太古に地球で誕生した原始の生命と見立てるならば、さしずめ自分は創造主か。

 それにしては安月給だと苦笑しながら、沖田森彦は顕微鏡を覗き込み、細胞操作のためのマニピュレーターを動かしていた。 

 森彦がチームリーダーを務めるこの研究室は、関東大学畜産学部に所属する生命科学研究所の七つあるプロジェクトチームの一つで、設立申請書類にある正式名称を『霊長類クローン胚およびES細胞に関する技術開発のためのプロジェクト』というが、そんな長ったらしい名前は看板にすら書かれておらず、森彦の名字から単に『沖田チーム』と呼ばれている。

 一二畳ほどの狭い研究室だが、森彦と共に働く研究スタッフの人数を考えれば十分な広さだ。機材なども最新のハイテク機器のたぐいは特に置かれていなかったが、必要なものはすべて揃っていた。

 そもそも動物の細胞は細菌などと比べてはるかに大きいから、顕微鏡は昔ながらの光学式しか使わないし、培養にしてもワインセラーのような保管庫で一定の温度と湿度を保つことさえできれば、あとは人間の手作業が一番信頼できる。

 森彦がこだわっているのは、むしろ実験室の清潔さや明るさだ。清潔さは実験の信頼性に関わる問題なので当然だったが、長くこもって作業をすることを思えば、照明にしても内装にしても、気が滅入るような暗い仕事場になるのだけは避けたかった。

 だから森彦のこの研究室には、普通は見かけない花瓶に活けた花が飾られている。本物の花はさすがに微生物汚染の問題で置くことはできないから、よくできた造花をときどき替えながら飾るのが精一杯だったが、それでも白と黒と銀色だけの研究室にぽつんと置かれた極彩色の花は、意外な生々しさで研究スタッフたちのくたびれた目の止まり木となってくれていた。