鳩山首相が最後に仕掛けた
「小沢一郎へのクーデター」

窮ポッポが猫を噛む

 鳩山由紀夫首相が6月2日、退陣を表明した。突然だった。しかも小沢一郎民主党幹事長を道連れに。いったい、いつ決断したのだろうか。

 鳩山は退陣表明した両院議員総会で、「訪問していた韓国のホテル滞在中に自宅で飼っているのと同じヒヨドリを見て、『もう自宅に戻ってこい』と呼びかけているように思えた」と心境を語っている。いかにもロマンチックな鳩山らしい。こんなエピソードにまず嘘はない。ということは、5月末から退陣の腹を固めつつあったとみていい。

 そうだとすると、前夜まで流れていた「続投に意欲満々」という多くのメディアの見立ては、まったく違っていたことになる。

 鳩山は表向きの言葉とは裏腹に自らの退陣を前提にして、その後の政局をにらんでいた。最後にして最初の大仕事に挑んだ格好である。

 思えば、1日夕方に小沢との会談を終えた後、親指を立て笑顔でグッドサインをした鳩山と、苦虫をつぶしたような小沢の渋い表情が事態を象徴していた。

 続投を狙った鳩山が「小沢の支持を勝ち取った」と思われたが、実際は話が逆だった。鳩山は自らの退陣とセットで小沢を辞めさせるのに成功したのだ。

 ずばり言えば、今回の退陣劇は鳩山が政治生命を賭けて仕掛けた「小沢に対するクーデター」という側面がある。

 小沢にしてみれば、誤算だったに違いない。

 小沢は自らの政治資金問題で検察審査会から「起訴相当」の議決を受けたが、その後、東京地検は再び不起訴処分を決め「当面は逃げ切った」と思われていた。

 それまで、ガソリン税暫定税率廃止の先送りや高速道路料金見直しなど主要政策課題で小沢の言いなりだった鳩山が突然、自分に辞任を迫ってくるとは思いもよらなかったはず、とみるのが自然だ。

 捨て身で反乱した鳩山に追い込まれた小沢。これが今回の基本構図である。

 小沢はこれからどう立て直すのか。

 4日の両院議員総会がヤマ場になるが、後継代表・首相は菅直人副総理兼財務相が最有力であることに変わりはない。菅はこれまで小沢との対立を注意深く避けてきた。小沢の新年会にも顔を出している。

 加えて財務相に就任してから増税路線に大きく舵を切って、財務省・霞が関も味方につけている。水面下で政治資金問題がくすぶり続けている小沢に、「財務・国税を敵に回したくない」と考える動機がある。財務省との友好的関係をてこにして、菅は小沢に切り札を握った形である。

 小沢にすれば、菅はもっとも無難な選択といえる。

 だれが首相になるとしても、民主党内は従来にも増して小沢と反小沢の対立が激しくなるに違いない。鳩山退陣によって突然生じた「政治空白」が、必然的に勢力拡大を目指す主要なアクターたちのパワーゲームを余儀なくさせるからだ。

 小沢グループはこれまでも強固な団結を誇ってきたが、ここで一段と結束を強めていくだろう。苦境がかえってバネになる。

 反小沢の筆頭格だった渡部恒三元最高顧問らのグループも正念場だ。渡部は岡田克也外相や前原誠司国土交通相兼沖縄・北方対策担当相、仙谷由人国家戦略相、枝野幸男行政刷新相ら「七人衆」を率いている。

 そのうち有力な岡田と前原はともに閣僚として米軍普天間飛行場移設問題にかかわってきた。普天間迷走の責任をとって辞任する鳩山の後を襲うには、政治的正統性がない。

 仙谷、枝野も有力候補になりうるが、菅と比べると政治経歴の実績で劣る。そもそも小沢と真正面から戦って、権力を目指すガッツがあるだろうか。原口一博総務相や細野豪志副幹事長ら小沢に近い中堅たちの動向も焦点になる。

野に解き放たれた小沢一郎の「逆襲」

 見逃せないのは、亀井静香金融相兼郵政改革相の立ち位置だ。

 亀井は鳩山辞任直前まで鳩山を支える姿勢を鮮明にする一方、小沢とも近かった。社民党が連立政権を離脱したいま、亀井が率いる国民新党は連立政権が参院で過半数を維持するうえで、これまで以上に存在に重みを増している。

 あるいは亀井を官房長官に起用する選択肢さえあるかもしれない。そうなれば事実上、民主党と国民新党は一体になる。言い換えれば、小鳩政権に変わって「小沢・亀井・菅政権の誕生」である。

 今回は幹事長辞任に追い込まれた小沢だが、逆にいえば野に解き放たれたともいえる。水面下に潜った小沢は民主党分裂の可能性も含めて、あらゆる展開を視野に入れ、グループの純化を急ぐだろう。

 次の政権は鳩山政権に比べて、社民党を失った分だけ弱体化するのは避けられない。それもまた純化を急ぐ促進剤になる。加えて「政権のたらい回し」批判からも逃れられない。かつての自民党政権に対する批判がブーメランになって戻ってくる。

 いずれにせよ7月には参院選を迎える。

 鳩山と小沢のダブル辞任によっても、普天間迷走と「政治とカネ」問題のつけは大きく、連立与党が受けたダメージはそう簡単に回復しないだろう。幹事長を辞任する小沢が舞台奥深くに引っ込んで実権を握り続けるなら、二重権力構造が一段とひどくなるだけだ。
鳩山と小沢の辞任で一件落着とはいかない。大政局の幕は開いたばかりである。

(文中敬称略)

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