「第2次朝鮮戦争」
手負いの北朝鮮が仕掛けてきた

韓国哨戒艦沈没事件
攻撃指令は2月に下っていた!
昨年3月に行われた1万人規模の米韓合同軍事演習。北朝鮮は「敵対視政策」と猛反発した〔PHOTO〕菊池雅之

「普天間基地移設問題で進退きわまった鳩山由紀夫首相が撃ったのでは」

 こんなジョークが飛び出すほど絶妙なタイミングで、極東有事が表面化した。

 3月26日に韓国の哨戒艦「天安(チヨナン)」を爆発・沈没させたのは、北朝鮮製の魚雷だと調査委員会が断定したのである。

「米韓だけでなく、オーストラリア、イギリス、スウェーデンの専門家も調査に加わっていますから、調査結果にまず間違いはない」(海上保安庁関係者)

 沈没事件の前に北朝鮮の軍港から一隻の潜水艇が出航したのが米探査衛星によって確認されてもいる。潜水艇による魚雷攻撃が有力だが、在韓ジャーナリストが消息筋から得た、こんな衝撃情報もある。

パラシュートで海上に着水する韓国海軍特殊部隊。極秘裏に北朝鮮に上陸し、攪乱する〔PHOTO〕菊池雅之 

「北朝鮮の工作員が操縦する"人間魚雷"による自爆テロだというんです」

 この説については、日本の公安当局も確認していた。現役職員が解説する。

「そうした説が出るくらい、哨戒艦が沈められたのが予想外だったということです。我々も'90年代後半までは北に"人間魚雷"が存在していた事実は摑んでいます。しかし、今回の攻撃は魚雷によるものでしょう。

 使用されたのは誘導性能が優れた『CHT-02D』だと見られています。何より注目すべきは今年1月に北朝鮮の国防委員会が声明を出し、『報復の聖戦』を布告していたことでしょう」

 昨年11月、黄海上で北の警備艇が韓国艦に銃撃を受け、大破させられている。これに対する報復を、北は韓国に対して1月に宣言していたのだ。ソウル在住のジャーナリスト・金敬哲(キムキヨンチヨル)氏はさらに衝撃的な証言を紹介する。

「脱北者組織の『自由北朝鮮運動連合』の朴相学(パクサンハク)代表が北朝鮮国内の内通者から、『今年2月5日、金正日(キムジヨンイル)が西海艦隊司令部のある南浦(ナムポ)を訪問し、"98周年の前に大青海戦(11月の軍事衝突)の報復をしなさい"と大号令を発した』と聞いた、と証言しています。

 98周年とは金日成(キムイルソン)主席の誕生日の4月15日を指し、太陽節と呼ばれる記念日なのです」

 金総書記自らが韓国への攻撃指令を下していたというのだ。金氏が続ける。

引き上げ作業は難航。沈没した韓国哨戒艦「天安」が海上に姿を見せたのは撃沈されてから20日後だった〔PHOTO〕新華社/アフロ
韓国海兵隊の水陸両用装甲車。ものの数分で1000人規模の隊員を北朝鮮に上陸させられる〔PHOTO〕菊池雅之

「その後、北朝鮮で実に興味深い動きがありました。4月15日の太陽節になんと大将に4名、軍将星に100人が昇進しているんです。これは過去最大規模の昇進で、大青海戦の責任を問われて更迭されたチョン・ミョンド海軍司令官までもが大将に昇進しました。報復の成功に対する褒美と見て間違いないでしょう」

 とはいえ、報復によって、北朝鮮がより国際社会から孤立することは間違いない。なぜ、そんな暴挙が行われたのか。

「30年ぶりの大寒波による食糧難で、北朝鮮では餓死者が続出しています。また金剛山(クムガンサン)観光開発は頓挫しデノミ政策は大失敗するなど、経済もボロボロです。

 特にデノミの失敗で財産を紙クズにされた軍幹部たちの不満は爆発寸前で、デノミ担当者を3月に処刑したのも、その不満をそらすためでした。韓国への報復を求める軍の声を、金正日が抑えられなくなったのでしょう」(韓国国家情報院関係者)

 とはいえ韓国、何よりアメリカの制裁は怖い。ゆえに金総書記は5月初旬、中国に胡錦濤(フーチンタオ)国家主席を訪ねたのだという。

こちらも米韓合同演習にて。赤い星を付けた北朝鮮役の戦車(手前)を攻撃している場面 〔PHOTO〕菊池雅之

 北京在住ジャーナリスト・張京生(チヤンジンシエン)氏によれば、その目的は四つ。

「一つはアメリカへの牽制。米韓が進めてくるであろう制裁に対して、歯止めをかけてくれるよう頼んだ。二つ目は不満を抑えるための、軍部への利権のプレゼント。

 金総書記は軍幹部たちを大連や北京などで中国企業と引き合わせています。そして国境付近の開発など、さまざまな合弁事業を"後見人"として許可したのです。三つ目は権力基盤の強化。

 中国と互角にやりあえる姿をアピールして、金正日ここにあり、という姿を国内に印象付けた。最後は後継問題。北朝鮮の改革開放を条件に三男・ジョンウンを後継者として承認させたと聞いています」

ベトナムを越えるドロ沼へ

 だが、金総書記が今後も軍部を抑えられるかどうかは不透明だ。一方、韓国の李明博(イミヨンバク)大統領は国連安保理への提訴や北との共同事業の凍結を決め、5月24日には、国民向けの談話でこう牽制した。

「天安」を沈めた魚雷の残骸。モーターの形状に特徴があるという〔PHOTO〕AP/アフロ

「北朝鮮が韓国の領海・領空・領土を侵犯した場合は即座に自衛権を発動する」

 翌日、北は「北南関係の断絶、北南不可侵合意の破棄」を宣言。一触即発の状況が続いている。朝鮮戦争史に詳しい軍事評論家の藤井非三四(ひさし)氏は警告する。

「普通に考えれば戦争にはならない。だが、何かの"はずみ"による開戦も否定できない。現状のままでは金正日体制は長くもたないから、ある一定の時点まで攻撃をしかけ、平和条約を持ちかけようと考えている可能性もある」

 もし、開戦の火蓋が切られたら---藤井氏ら専門家の意見をまとめると「第2次朝鮮戦争」はこう推移する。

李明博大統領は5月24日、国民向け談話で「北朝鮮には相応の対価を払わせる」と言明した〔PHOTO〕ロイター/アフロ

 北朝鮮は衛星に探知されやすいテポドンではなく、特殊工作員による先制攻撃を選択。地下鉄のホームで化学テロを実行し、ソウルをパニックに陥れる。

 北の攻撃を受け、グアムから爆撃機B-1の編隊、米本土からF-22編隊が北へ急行。地中深く突っ込んで爆発する誘導爆弾バンカーバスターがシェルター内に隠されたミサイル施設を吹き飛ばし、最新戦闘機ミグ29を離陸前に撃墜。難なく制空権をおさえるが、次なる標的が厄介だ。

 38度線---DMZ(非武装地帯)付近に設置されたキャノン砲ら、軽く1000門を超える火砲群である。

 陸から平壌を目指す"初弾命中率90%"のエイブラムス戦車部隊と機動力に優れた装甲車部隊ストライカー旅団、韓国陸軍の最新戦車K2黒豹は北の旧式戦車を撃破するが、山に籠り散発的に攻撃してくるゲリラコマンドに手を焼く。その間、空爆から逃れた火砲がソウルと近郊の街を砲撃。

4月29日に行われた「天安」将兵の合同の告別式。犠牲者の数は46名と大韓航空機爆破事故に次ぐ大惨事に〔PHOTO〕ロイター/アフロ

 一方、沖縄から出撃した米海兵隊は韓国の海兵隊とともに半島の東西から上陸作戦を展開する。米韓海兵隊が金正日を捉えるのが早いか、ソウル市民が音を上げるのが早いか---。

 5月23日、ソウルの地下鉄で運行状況などの情報収集をしていた北朝鮮の女性工作員が逮捕された。ベトナムを越えるドロ沼となりそうな第2次朝鮮戦争。その戦端はいつ開かれてもおかしくない。

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