大型スーツケースもお土産も売れない。
海外旅行はかくもコンパクトになった

海外旅行成田空港の発表では、今年のゴールデンウィークに同空港から海外に行った人は54万人超

「旅なれた人は荷物が少ない」

 よく聞く台詞であるが、本当にそうなのだろうか。

 たしかにそういう人はいる。

 例えば、写真家の田中長徳さん。

 一昨年、広東、香港を三泊で御一緒させていただいた。

 私は、リモワのトロリーの機内に持ち込めるやつとトゥミのリュックを持って成田に赴いたのだが、長徳先生は、築地で売っている、籐の買物籠一つなのであった。

 ちっちゃいですね、と云うと「これでデジカメと一眼レフとワンカップ焼酎が入ります」というお答え。

 まあ、それはそうでしょうが・・・。

 だいたい、世界中、それ一つで行ってしまうというのだから、これは達人としか云い様がない。

 建築家の磯崎新さんもそうだ。

 中国各地のクライアントを訪ねている途中、上海で合流し、深せん(土へんに川)、香港と同道させていただいたのだが、数週間に及ぶ旅行なのに、荷物はトゥミの革製ガーメントケース一つである。

 まあ、海外にあれだけ多くの現場を抱えて、飛び回っているのだから、一々、大荷物などを持って歩けない、というのは解るのだけれど。

筆者イチ押しの旅行小物は何か?

 それにしても、我が身に比べて、何という潔癖、何という身軽さであることか。

 私の場合、かなり旅行をしている方なのだけれど、旅行をすればするほど、装備がシンプルになるのでなく、むしろ増えていくような有様なのである。

 あの時、あれが無くて困った、これがあれば何とかなった、という失敗体験が、負に作用して、とにかく想定し得る事態すべてに対応しようとしてしまうのである。

 つまり、旅行を重ねれば、重ねるほど、荷物が増える、増えてしまいがちである、という有様なのだ。

 たぶん使わないと思うものさえ、スーツケースに入っているし、心配性なので―本当ですよ―、デジカメなどは複数、スーツケースに入れてゆく。

 実際、それで助かったことがあった。

 ニューギニアのポートモレスビーで、入国係官に因縁をつけられて、リコーのキャプリオを巻き上げられた事があったけれど、スーツケースにサイバーショットを放り込んで置いたので助かった。もっともニューギニアに対する悪印象はぬぐえなかった。

 ただ、フェアに云えば、ニューギニアは数百の言語があると云われる島嶼国家であり、島ごとに人間性はかなり違う。首都で凶悪な犯罪が絶えないニューギニア本島に対して、ラバウルの住人たちは、きわめて人がよく温良純朴である。

 「さらばラバウルよ」と歌われた気分も解るし、今村均大将の下、孤立した日本軍が終戦まで戦力を維持できたのも、島民の資質に助けられたところが大きいかもしれない。火山灰には閉口したけれど。

   ∴

 とは云いながら、一方で荷物が軽減されているのも事実である。かつては出先で使うため、かなり大きな電圧調整の器具をもっていかなければならなかったけれど、近年、飛躍的に小型化が進んだ。

 インターネット関係のアダプターなども、世界的に標準化が進んだために、かなり簡便になっている。かつては、ダイヤルアップどころか、最悪の場合を想定して受話器に接続するカプラーまで持参していたことを考えると夢のようではある。

 私の大荷物の主因は、本である。旅先では、その土地をテーマにした本を読むというのが、基本的なスタンスなのだ。

 一個所滞在というスタイルだったらそれでもいいのだが―とはいえ、一昨年、リスボンに行った時は、ペソアや檀一雄の本を十五冊くらい持っていったし、去年のメンフィス行きにもフォークナーの小説など二十冊近く―、いろいろな土地を転々とする場合は、かなり困った事になる。その上、出先でも本を買ったりするから、いよいよ困る。

 まあ、本は飯の種だから、仕方がないのだけれど。読む本がなくなる事への強迫観念も勿論含まれてはいるのだけれど。

 長期間の旅行の時は、リモワのトパーズで行く。もう十五年くらい使っていて、その頃のリモワは、ジュラルミン製で、べコべコしているのだが、柔らかいだけあってなかなか壊れない。鍵は二度壊されたけれど―ブダペストとミラノ―、本体は無事である。

 この時期がおそらくリモワの全盛期で、現在のように強化アルミや、ポリカーボネートのスーツケースを、しかも色とりどりにして売っているのを見ると、何とも味気ない気持ちになる。時勢であるから仕方がないけれど、死ぬまでこのべコべコのトパーズを使ってやろうと思っている。

   ∴

 リモワのトランクは、有楽町、交通会館のトコーで買った。ここは、いつでも気持ちよく修理に応じてくれるから心づよい。旅券の申し込み・受け取りの窓口に隣接しているというアドバンテージはあるものの、地図や旅行小物の品揃えは、群を抜いている。

 旅行用品・お土産業界は、近年、売り上げが落ちているという。

 海外旅行がコンパクトになり、周遊型からスポット型に変わり、また海外出張も減る傾向にあることから大型のスーツケースはほとんど売れない状況だ、と『週刊東洋経済』平成二十一年三月二十八日号は、旅行用品・お土産販売会社役員の声を伝えている。

「お土産についても、海外旅行自体がもう自慢でも何でもなくなったから、近所だの職場だのにお土産を配らない。特に若い人はネットで予約して、何も言わずに休み取って行っちゃうでしょ。昔はチョコ6箱セットとか多めに買ったもんだけど、今は余分には買わない。客単価は20年前の3万5000円から今では2万円切りますね」

 まあ、たしかに我が身を省みても、海外旅行に行って、土産を買うということはほとんどなくなった。昔は、留守中迷惑をかけた編集者に買ったりしたのだが、貰った方は貰った方で、自分が行った時、返さなければという配慮がはたらいてしまう。そういう気の遣い方をしているうちに、いつからか土産を買わなくなった。

 そうそう、旅行の小物ですが、携帯用のウォシュレットは、かなりお勧めです。旅先では、胃腸の調子が崩れがちなのに、海外のトイレットペーパーは、硬くて辛い。トコーで買えます。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら