iPadが大反響のアップルに忍び寄る
「マイクロソフトの轍」

時価総額はソニーの7倍以上

 苦節35年―。

 1976年の創業以来、浮き沈みを繰り返してきた、アップルが、ついに世界最大のICT(情報通信技術)企業の栄冠を勝ち取った。

 5月26日のニューヨーク証券取引所の終値をベースに計算した時価総額で、ライバルのマイクロソフトを追い越したのだ。

 日本でも同28日、iPhone(アイフォーン)に続くヒットが確実なiPad(アイパッド)を発売し、"行列"ができるほどの人気を証明してみせた。

 しかし、手放しで喜ぶのは早計だ。かつてマイクロソフトが苦しみ、輝きと勢いを失ったように、アップルにも「支配力の影」とでも呼ぶべき試練が静かに忍び寄っている。

日本勢はコバンザメ商法を狙うが

 長かった1980年代の低迷、ウィンドウズ95の投入により着実に巨大企業として地歩を固めつつあったライバルのマイクロソフトによる1997年の資金援助。

 あの当時、いったい何人の人が当時、今日のアップルの復権を予想しただろうか。

 事実上の取締役解任という処分を受けて、一度は自ら持ち株の大半を売却してアップルを去ったスティーブ・ジョブズ氏の復帰後、最初の大きな成功であり、アップルにとっても大きな節目となったのは、何と言っても2001年の携帯音楽プレーヤーのiPod(アイポッド)の発売だろう。

 管理ソフトのiTunes(アイチューンズ)やインターネット上の音楽販売店であるiTunes Store(アイチューンズ・ストア)のサービス開始と相まっての成功とはいえ、iPodの直感的な操作性の高さは、1970年代からのオールドファンにはアップルらしさを感じさせるものだった。

 元祖は、ゼロックスのパロアルト研究所だという説が根強いものの、アップルはアイコンやファイルを使った視覚的、直接的で分かり易いグラフィカルユーザーインターフェースの本格的な実用化に大きく貢献した企業だからである。

 そのアップルの伝統は、iPhoneとiPadという2大商品に脈々と受け継がれている。

 物理的にキーボードやマウスを使うのではなく、端末の画面に直接触れてソフトウェアを操れる「タッチパッド」方式は、その象徴だ。「タッチパッド」方式自体は、早くからカーナビなどで普及していた技術である。

 それを他の追随を許さない使い易いインターフェースに仕上げてみせたところが、スティーブ・ジョブズ経営最高顧問(CEO)が率いるアップルらしさと言える。

 こうした積み上げが、大輪の花となって咲いた。それが、5月26日のニューヨーク株式市場のアップル株に対する評価である。

 この日の終値をベースにしたアップルの時価総額(時価に発行済み株式総数を乗じたもの)が実に2213億ドルと、かつて同社を経営危機に追い込んだライバルであり、支援の手を差し伸べたマイクロソフト(2193億ドル)を上回ったのである。

 つまり、市場は、アップルに「情報通信技術(ICT)企業で世界一」という勲章を与えたのだ。第3位以下には、シスコシステムズ(1310億ドル)、グーグル(1159億ドル)、インテル(1143億ドル)といったお馴染みの巨人たちが続く。ちなみに、日本のソニーは、同じく311億ドルとアップルの7分の1以下の水準に甘んじている。

 余談だが、ある携帯電話会社の幹部ら複数の日本企業の経営者が最近、筆者に「『iPadのような製品を作ればヒットしますよ』と(アップルの)スティーブ・ジョブズ氏に助言したのは、私です」と自慢していた。

 真偽のほどは確認していないが、iPadを世の中に送り出したのが、日本企業でないことは周知の通りである。強烈な個性で、製品の細部にも強い拘りを見せたというジョブズ氏が率いるアップルが、世に送り出したユニークな商品なのである。

 ちょっと寂しい話だが、日本で花盛りなのは、ある種の便乗商法だ。

 例えば、ソフトバンク・モバイルは、携帯電話を使ったインターネット接続を囲い込んで収益の拡大に役立てようと、一部機種の販売権の獲得や、その端末の他社の携帯電話網への接続を制限するSIMロックを打ち出した。

 それに対抗して、NTTグループのドコモや東日本、そしてイー・モバイルなどが、無線LANを使ったネットワーク接続の値下げ攻勢を仕掛けている。

 ビジネスとして見た場合、新たな市場の開拓を目指すアップルと、コバンザメ商法の日本勢では、成功した場合のリターンに大きな差が付くのは避けられない。この分野の国際競争力と言う意味で、日本勢はどんどん取り残されていくのだろうか。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら