環境・エネルギー
ロシアもイギリスも垂れ流し、中国はチベットに
「現代のババ抜き」核廃棄物はどこへ捨てる?

「技術先進国」日本とドイツが降りたら、あとは大変
アメリカの放射性廃棄物〔PHOTO〕gettyimages

 「今から5000年前、エジプト人は高濃度の核廃棄物を地中深くに埋め、その上に巨大なピラミッドを建立した。絶大な権力を誇ったファラオたちはそこに埋葬され、死後は守護神として、母なるエジプトの大地を永久に放射能汚染から守り続けることになった。後世、ピラミッドに忍び込んだ墓荒らしたちが決まって不審な死を遂げたのは、地下から立ち上ってくる放射線の影響であったことが、すでに明らかになっている。

 なお、古代エジプト人は核の貯蔵期間を5000年と定めており、来年2012年が、第三王朝ジョセル王のピラミッド下の核貯蔵の保証が切れる年となる。当時、1万年は安全と言われた保存容器だが、5000年の歳月を経た現在、どういう状態になっているか、専門家もよくわからない。

 ただ、なんらかの放射漏れが起こっている事はほぼ確実とみられている。前ムバラク大統領はそれに合わせ、核廃棄物の取り出しと安全な再貯蔵の検討を進めていたが、惜しくも失脚してしまったため、計画は頓挫している。なお新政権は、『我々はジョセル政権の直系の後継ではない』として、計画の引き継ぎを拒否する模様。エジプトの環境保護団体は事態を重く見ており、一刻も早く古代の核廃棄物を安全な場所に移すため、超党派ならず、超国家間での取り組みを要請している。

 一方、市民の間には、貧困にあえぐ現代のエジプト人が、なぜ豊かに暮らした古代人のゴミの後始末をしなければいけないのかと不満の声が高まっており、5000年前の核廃棄物は、エジプトの世論を真っ二つに分ける不安材料となる可能性が強い」

 以上は、もちろん私の作り話だが、現実も似たようなものだ。

 100基以上の原発を稼働させているアメリカ合衆国は1987年、ネバダ州ユッカ・マウンテンに高レベルの放射性廃棄物の最終処分場を建設するプロジェクトをスタートさせ、砂漠の地下200メートルの地点に、20年以上も坑道を掘り続けてきた。ユッカ・マウンテンのあるネバダ砂漠というのは、アメリカが800回も核実験をしてきた場所だ。雨がほとんど降らず、人もいない。そして地下水は地下500から800メートルという非常に深いところにあるので、核廃棄物の貯蔵容器と水分との接触も起こらないとされている。

 完成した暁には7万トンの高レベル放射性廃棄物を永久処分するはずだったが、オバマ政権になって急にプログラムが中断された。このような巨大な時間的スパンにおいては何が起こるか分からず、ネバダ砂漠自体が水没する可能性さえ否定できないという。

 中でも私が一番腹に据えかねるのは、永久貯蔵施設の耐久性の保証期間を、1万年にするか、それとも100万年にするかという議論だ。このような絵空事を、あたかも討議可能なテーマであるかのように扱い、真摯な顔で語る人間を私は信じない。私が自分の決定に責任を取れるのは、私の生きている間の話だ。

 1万年後のことを語る人は、たとえ1万年後に人類がまだ生きていて、ネバダ砂漠が水没していないとしても、もし放射能漏れが起こっているなら、いったい誰に核廃棄物をほじくり出させよういうのだろう。エジプト人が原発も核兵器も持っていなかったのは、私たちにとって本当に幸いなことだった。

 ただ現実問題として、アメリカの高レベル核廃棄物の総量はそろそろ7万トンに達しようとしており、この施設が使えないとなると、大変困ることになる。現在はとりあえず72か所の貯蔵施設に分散してあるが、とりわけ困るのは、それが年々増えていくことだ。

イギリス政府が隠した「原発事故」の死者

 現在、世界中に400以上の原発があり、そこから高レベルの放射能を発散する廃棄物が出る。しかし、廃棄物の安全な最終処理を行っている国は、まだ世界のどこにもない。先日、福島で低レベルの汚染水を海に流したら、ロシアが抗議してきたが、実は、おそらく世界で一番危ないことをしているのはロシアだ。

 モスクワから西1500キロ、南ウラル地方のマヤークというところに原発がある。なんと、スターリンが40年代にアメリカに対抗して作らせたという年季の入った代物で、それが驚いたことに今でも稼働している。1957年には大事故が起こったが、ひた隠しにされ、事故の状況や被害者の数などは、まだ公表されていない。確かなのは、今日のマヤークが、少なくともチェルノブイリと同じぐらい激しく放射能汚染された場所だということだ。

 マヤークには原発だけでなく、使用済み核燃料の再処理施設もある。再処理をすると、高レベルの放射性廃棄物は減らせるが、中・低レベルの廃棄物が大量に出る。現在どの国も、それらの廃棄物を安全に貯蔵するために手を焼いているのだが、マヤークではなんと、液状の物は川に放出している。どっちみち汚染されているから構わないという理屈だろうか。そればかりか、ロシアは2001年より、外国の使用済み燃料の処理も引き受け始めた。自国民の健康も、環境問題も考えなくてすむのなら、これほど儲かる商売はない。

 一方イギリスは、低レベルの液状廃棄物を恒常的に海に流している。イギリス北西の町セラフィールドの原子力センターは世界的に有名だが、ここで発生した低レベルの廃棄物はアイリッシュ海に捨てられる。当然のことながら、アイルランドとノルウェーがひどく迷惑している。それでも、近海で漁業が営まれているというから、何だか腑に落ちない。

 なお、ここの原発は、マヤークと同じく1957年に大事故を起こした。しかし、当時の政権は事故をひた隠しにしたため、避難が遅れ、死ななくてもよかったはずの多くの住民が死亡した。汚染水も大量に海に垂れ流された。事故が公表されたのは、30年も後のことだ。

 かつての海軍王イギリスは、どうも昔から、手に負えない核廃棄物を海に捨てる悪い癖があるようだ。IAEA(国際原子力機関)の資料によれば、49年から82年の間に多くの国が核廃棄物をドラム缶に詰めて海洋投棄しているが、イギリスの捨てている量が群を抜いている。大西洋と太平洋に投棄された放射能量の76.6パーセントがイギリスの物である。アメリカはその10分の1に過ぎない。

 イギリスの次に多かったのがスイス。スイスは山岳国家で海がないのに、わざわざ海に持って行って捨てていたかと思うと、何だか腹が立つ。汚いものはなるべく自分とは関係のない遠いところへという魂胆が見え見えだ。

 そういえばスイス人は、世界中の汚いお金を集めて富を築いていることなどおくびにも出さず、常に清廉潔白な顔をしている。国土は天国のように美しく、レストランもトイレも無菌の実験室のように清潔だ。

 話を海洋投棄の話に戻す。前述のIAEAの統計には旧ソ連が抜けている。旧ソ連は原発だけでなく、核兵器も持つ。北海に投棄された核廃棄物の45%以上が旧ソ連の物だったことは分かっているが、正確な資料はない。

 海洋投棄は、最初は各国が個別に行っていたが、67年からはOECDと原子力機関の下、各国が協力して行うことになった。72年にはそのための条約が採択された。「みんなでやれば怖くない」条約だ。82年以降は、海洋投棄はほとんど行われていないということにはなっているが、本当のところはよくわからない。また、すでに投棄された物の量も、容器が海底でどうなっているかもわからない。

 海は広いため不法投棄の把握が難しく、深い海溝に投棄するのでアフターケアもできない。人類は、地球に対して取り返しのつかない罪を犯しているような気がする。

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