牧野洋の「ジャーナリズムは死んだか」
2010年05月27日(木) 牧野 洋

調査報道を支えるリサーチャーと
「ディープウェブ検索」

CIA「トンネル会社」の正体はこうして暴かれた

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ネットも駆使した調査報道がCIAの厚い壁を打ち抜いた(写真はバージニアのCIA本部) 〔PHOTO〕 Glowimages

 ブロガー情報(05月20日「『CIA秘密収容所』スクープを助けたブロガー情報」参照)を頼りに、2001年10月末、ワシントン・ポストのワシントン本社を離れて、マサチューセッツ州のボストン法務局を訪ねたスター記者デイナ・プリースト。目的は、「プレミア・エグゼクティブ・トランスポート・サービシーズ社」の登記簿を洗い出すことだった。

 アメリカ中央情報局(CIA)が世界各地でテロ容疑者を拉致し、国外へ輸送するために利用しているトンネル会社がプレミア・エグゼクティブ――プリーストはこうにらんだのだ。

 ボストン法務局でプリーストが手にしたのは、マイクロフィルム形式で保存された登記簿だった。法務局内の一画に座り、旧式のリールを長時間回していると、目まいに見舞われた。だが、どうにか必要な登記簿を見つけ出し、すべて複写した。そこには、同社の役員16人の名前が書き込まれていたのである。

 次に、プレミア・エグゼクティブのデッドハム本社を訪れた。本社は閉まっており、だれもいなかったが、入口のドアには案内があった。そこにはさらに6、7人の名前が記されていた。これでプレミア・エグゼクティブの関係者20人以上の名前を入手できたわけだ。

 ワシントン・ポストのワシントン本社に戻ると、ジュリー・テートに名前のリストを手渡した。「この人たちが実在するのかどうか、徹底的に調べてね」。テートは経験豊富で優秀なリサーチャーであり、調査報道を売り物にする新聞社には欠かせない存在だ。

 プリーストは言う。

「あなたが自分の名前をジュリーに教えたとしよう。おそらく、その情報だけで彼女はあなたの住所歴や職歴、携帯電話番号のほか、社会保障番号も割り出すだろう。こんなことはあまり公には言いにくいのだが、その気になればどんな情報でも手に入れる――これがジュリーなのだ」

日本の新聞社にはいない「リサーチャー」の能力

 テートは、情報公開制度を駆使して必要なデータをどん欲に集めたり、自分独自のネットワークを使ってあちこちに電話をかけたりする。インターネット上では、いわゆる「ディープウェブ検索」も駆使する。つまり、ドメイン名が「.gov」で終わる政府系ウェブサイトや「.mil」で終わるアメリカ軍系ウェブサイト内へ深く入り込み、グーグルでは検索できない情報も探し出す。

 このような能力は特殊であり、一朝一夕には身に付かない。だから、アメリカの新聞社では有能なリサーチャーは重宝される。プリーストは「公開されていながら、どこにあるか分からず、だれにも知られていない情報は山ほどある。

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