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自治医大・間野博行教授が明かす。
遺伝子治療でがんはここまで治せる

大研究 それは遺伝する? vol.3

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 みんなやっぱり気になる、遺伝の謎。頭のデキだって、寿命だって、ハゲだって、デブだって・・・遺伝がまったく関係していないものなんてない。じゃあ、一体どこまで遺伝して、どこから遺伝しないのか? 何がどこまで決まっているのか? 最新の研究成果もふまえ、遺伝子が示す「運命」を徹底検証しよう。

自治医大・間野博行教授が明かす。
遺伝子治療でがんはここまで治せる

間野博行氏
東京大学大学院医学系研究科特任教授・自治医科大学教授
'84年東京大学医学部医学科卒業。
東京大学医学部第三内科助手等を経て、'00年に自治医科大学医学部ゲノム機能研究部を立ち上げる

 薬を飲めばがんが治る―そんな時代がやってきた。若年で発症するタイプの肺がんの原因遺伝子を突き止めた、東京大学大学院医学系研究科特任教授・自治医科大学教授・間野博行(まのひろゆき)氏(50歳)に、がんの遺伝子治療の「最前線」について聞いた。

 両方の肺に胸水(きょうすい)が溜まって、心臓の周りのリンパ節が腫はれ、食事も取れず、機械によって大量の酸素を身体に入れねばならない、そんな状態だった肺がんの患者さんが、投薬のわずか2週間後にお見舞いにいくと、別人のように元気になっていた。酸素吸入どころか病室をぬけ出して、病院周辺の美味しい店を捜して散歩していたのです。

 '07年、肺がんの原因となる遺伝子を私が見つけたことでそれを抑える有効な治療薬ができ、余命わずかだった患者さんの命を助けることができました。

 これまで「がん研究が実際の治療に役立つ日は、はたして来るのだろうか」という疑問もありました。しかし今回は、日本の「がん研究」によって、初めて人の命を救うこととなった。残念ながら、諸外国に比べ日本のがん臨床試験の環境がおとるため、「現場」は日本ではなく韓国の病院になりましたが、このときは研究の成果によって、こんなことができるのかと自分でも感激してしまいました。

 それを目の当たりにしてから、自分も日本人として、また肺がんの原因遺伝子を発見した研究者としての社会的責任を感じ、患者さんのためにできる限りのことをしたいと考えるようになりました。

 そこで去年の3月に、肺がん患者さんの全国診断ネットワークを立ち上げ、ボランティアで診断を行い、陽性なら病院を紹介するという活動を始めました。すでに数百例以上の検査をして、何十例も陽性反応が出たため、20人近くはすでにソウルに行って治療を受けています。

かぜ薬を飲むように

 がんの治療法は現在、大きく分けて3種類あります。一つ目は早期で見つけて外科手術で切る。これは現在も、将来的にも有効な治療法です。二つ目は、放射線療法に代表される、がんが属する細胞集団全体を全滅させる方法。最後が、私たちが取り組んでいる「分子標的療法」で、がんの原因遺伝子を見つけて、その機能を抑える薬を開発する方法です。

 がんが起こる仕組みを簡単に説明しましょう。私たちの身体のあらゆる細胞は、必要に応じて分裂を繰り返して増殖しています。

 この細胞分裂のメカニズムは、さまざまな遺伝子によって精妙に制御されているのですが、ごく稀に必要もないのに「分裂せよ」という"嘘の信号"を出してしまう遺伝子が生まれ、そのエラーのせいで際限なく細胞分裂が続けられてしまうことがあります。この結果できた細胞をがんと呼ぶのです。