孫正義社長「税金ゼロで光の道が整備できる」はムリがある
「孫氏の兵法」は王道を行け

 ソフトバンクの孫正義社長が最近、様々な場面で、国家戦略となった『光の道』構想を「税金ゼロでできる」と主張している。

 経済のグローバル化が進む中、国際競争力や生産性を維持・向上するため、情報通信基盤の整備と普及が重要なことは言うまでもない。

 日本にとって優先度の高い経済政策をあげれば、人口減少・少子高齢化対策をはじめ、貿易・経済の自由化・国際化、財政の再建、地球温暖化の予防などが並ぶだろう。

  そして、それらに勝るとも劣らず大切なのが、情報通信基盤の整備と普及である。

 この基盤がなければ、遠隔医療や電子政府、電子教科書などといった政策が、そろって画餅に終わるからだ。

 ただし、情報通信基盤の整備・普及を政策的に加速するには、公的負担が必要な部分が少なからず残っているのが実情だ。

 ところが、孫社長はそうした現実に目を向けず、あえて「税金ゼロでできる」という乱暴な論理を掲げて、大きな課題を安直に実現できるかのような幻想を国民に与えていると言わざるを得ない。

 この問題は、4月27日付けの本コラム(「ソフトバンク孫社長が仕掛ける「NTTの構造分離」への疑問」)でもある程度触れた。が、途中段階だったその時と今回では状況が大きく違っている。

 当時、原口一博総務大臣のタスクフォースで、詰まっていなかった議論や、固まっていなかった定義が集約され、中間報告がまとまったからである。そこで、今回はまず、「光の道」構想の説明から始めよう。

 この構想は、昨年12月に急浮上したものだ。端的に言えば、伝送速度毎秒100メガビットを誇る光ファイバー網を軸にした超高速ブロードバンド網の整備・普及策である。

 ちなみに、今年3月になって、突然、その具体化を命じられたのは、原口大臣が昨年10月に設置した「グローバル時代におけるICT(情報通信技術)政策に関するタスクフォース」だ。

 このタスクフォースには、「過去の競争政策のレビュー部会」(第1部会)、「電気通信市場の環境変化への対応検討部会」(第2部会)、「国際競争力強化検討部会」(第3部会)、「地球的課題検討部会」(第4部会)の4つの部会が存在する。

 発足当初の目的は、「少子高齢化の急速な進展による経済成長への影響等が懸念される中、グローバルな視点から、競争政策を環境変化に対応したものに見直すとともに、ICTの利活用により、我が国及び諸外国が直面する経済的、社会的課題等の解決に貢献するため、新たなICT政策について検討すること」とされていた。

 ところが、3月になって突如、原口大臣は、似て非なるミッションを発動した。そのミッションは、
(1)「光の道」の整備(アクセス網整備の方法、NTTの経営形態を含む)、
(2)国民の「光の道」へのアクセス権の保障
  (ユニバーサルサービスの見直し、範囲及び確保方策)、
(3)ICT利活用による「豊かな社会」の実現
  (ICT利活用促進一括法案、各種規制の見直し等)
――の3項目を、タスクフォースに検討せよというものだ。

 このうち(1)と(2)については、タスクフォースの1、2部会の合同部会のミッションとされ、5月18日までに一定の結論をまとめて中間報告として提出することが求められた。

 筆者は第1部会の委員として審議に加わった当事者の一人である。同時に経済ジャーナリストとして、この問題を当事者たちがどう捉えているかを取材してきた。

コンフィデンシャルと書かれた非公開資料

 一方、孫社長は、NTTの三浦惺社長やKDDIの小野寺正社長らとともに第3部会の委員を務めている。

 孫社長が問題の「税金ゼロ」発言を行ったのは、筆者の発案で合同部会が4月20日に開催したヒアリングの席でのことだ。4月27日付けの本コラムで詳しくリポートしたように、このとき、孫社長は、

「光(ファイバー網敷設)のコストは安い、(だからNTTの光のアクセス部門を)構造分離すべきだ。(分離しても)経営は成り立つ。そうすれば、自然に豊かな国民生活を実現できる」

「(メタルの維持費は)10年で3.9兆円」「追加で、(残りのメタル回線を)100%光の芯線に置き換えるのに必要なコストは、たった2.5兆円です。つまり、(メタル回線の)維持費だけで、(必要な光ファイバー網の)モノが買える」

 などと述べ、「税金ゼロ」を、自信たっぷりの表情で請け負って見せた。

 そして同様の主張を、それに前後して、テレビ番組やインターネットの動画配信などでも繰り返した。

 しかし、この前もふれたように、その内容は論理的で説得力のあるものとはいえない。例えば、孫社長は実際の光ファイバー網への転換を、各家庭内の屋内工事まで含めて「5年」で終える必要がある、と述べている。メタルの10年分の維持費だけで投資資金が調達できるという計算にはならない。

 筆者はその場で、詳細な説明を求めた。しかし、孫社長はバックデータの提供だけを約して、その場での説明をしなかった。

 そのとき約束したバックデータは、ヒアリング後の最初の合同部会(4月27日)に提出された。これらのバックデータは、一段と説得力を欠くものだった。しかも、その資料にはベタベタと「コンフィデンシャル」のハンコが押してあった。そのため、インターネット中継で公開されている合同部会で、委員として議論の材料に使うことができなかった。

 そこで筆者は、このバックデータがNTTの公開数字をもとにした推計や試算であったことから、きちんと公開するよう求めた。が、ソフトバンクは数値を変えた資料でかわそうとしたり、データを削除した資料を作成してお茶を濁そうとした。4月27日に提出した元の数値やそのデータの公開にはなかなか応じようとしなかった。

 結局、合同部会は5月14日夜、中間報告案の議論を終えたのである。

 ソフトバンクが問題のデータ提供に応じたのは、その後、週末を挟んだ17日の月曜日になってからのことだ。

 その中には、やはり「2兆2000億円に及ぶ外部資金調達が必要だ」、「(構造分離で誕生するアクセス会社に銅線の撤去や繰上償却に伴う)約1兆8000億円の特別損失を初年度に計上させる(巨額の債務超過に陥るリスクが高い)」、「(外部調達資金の返済開始は)6年後」などといったプランが書かれている。

 しかし、いきなり巨額の赤字を出す会社に、2兆円も融資する銀行があるだろうか

 実際のところ、通信事業者の反応は辛辣だった。

 筆者は、仮に、タスクフォースの審議段階で、この資料を公表していたら、分割の槍玉にあげられたNTTだけでなく、同じようにインフラの整備に尽力しているKDDIやケーブルテレビ各社からも「机上の空論」「非現実的だ」といった猛烈な批判が沸き起こり、議論を進められなかったのではないかと、背筋が寒くなった。

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