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鳩山家は5代連続で東大合格、
頭の良し悪しは遺伝するのか

大研究 それは遺伝する? vol.1

 みんなやっぱり気になる、遺伝の謎。頭のデキだって、寿命だって、ハゲだって、デブだって・・・遺伝がまったく関係していないものなんてない。じゃあ、一体どこまで遺伝して、どこから遺伝しないのか? 何がどこまで決まっているのか? 最新の研究成果もふまえ、遺伝子が示す「運命」を徹底検証しよう。

鳩山家は5代連続で東大合格、頭の良し悪しは遺伝するのか

 そう遠くない未来。出生から数秒後に新生児の推定寿命と死因を特定できるほど、遺伝子研究は進歩していた。

 夫婦は、生まれてくる子どもがより優秀で、病気にならないよう、遺伝子操作による人工授精をすることが当たり前になっている。自然出産は野蛮な行為とされ、劣性遺伝子を持った人間は"不適正者"として差別の対象にすらなっていた。

 そんな不適正者の一人のある若者は、30.2歳というあまりにも短い寿命が運命づけられていた。ところが、彼は宇宙飛行士になる夢をあきらめきれず、家を飛び出していく―。

 これは、'97年のSFサスペンス映画『ガタカ』(イーサン・ホーク主演)の物語設定である。

「遺伝子の研究者の間ではよく話題にのぼる評判のいい映画なんですが、このような世界観は、いまやファンタジーとは言えなくなっています。この映画の設定に用いられたような遺伝子にかかわる技術は、すでに可能だと言える段階まで研究が進んでいるのです。もしかしたら、あと10年後には現実になっているかもしれません」

 行動遺伝学の専門家で慶應義塾大学文学部教授の安藤寿康(じゅこう)氏はそう語る。

DNAの2重らせん構造

 1953年にDNA(デオキシリボ核酸)の二重らせん構造が解明され、それから半世紀が過ぎた2003年には人間の持つ全遺伝情報(ヒトゲノム)が解読されている。そして、まさにいまこの瞬間も、私たち個人個人が持つ体質や気質の「設計図」である遺伝子の秘密に迫る研究が、世界中で進められているのだ。

 そこまで人間の遺伝子が解明されてきたのなら、たとえば、知能や賢さにかかわる遺伝についても、根本的な部分がわかりつつあるのではないか。

生まれつきか、環境なのか

 人の「頭の良し悪し」というのは、受精卵ができた時から―つまり、生まれる前から、あらかじめ遺伝によって方向づけられているものなのだろうか?

 東京大学大学院総合文化研究科教授で、人間の知能や性格の分子レベルの解明を目指している石浦章一氏はこう話す。

「知能指数(IQ)は遺伝の影響が大きいということは、一卵性双生児(100%同じ遺伝子を共有している)と二卵性双生児(平均的に50%同じ遺伝子を共有している)を比較した研究によって、ある程度明らかになっています」

 明らかに賢い、という人間はいる。誰もが、自分の身近にも何人か、そんな知性的な人物を思い浮かべることができるはずだ。

「当然、世界中の研究者たちが"賢い人には特別な遺伝子が影響しているのではないか"と、それを調べているのですが、残念ながらいまだに発見できていないのです。

 たとえば、イギリスでは、IQの高い7000人のDNAを採取して、それ以外の人と比べた研究結果が出ていますが、これといったものは見つかっていない。数学的能力についても同様に決定的な差異は発見されていません。

 一方で、高血圧になりやすい遺伝子や、糖尿病になりやすい遺伝子といった、病気に関する遺伝子は次々と見つかっています(上の図参照)。

 ちょうど少し前、タバコをやめられる人とやめられない人の差は、遺伝子が影響しているという報告も出てきました。

 ところが、頭のいい遺伝子というのはいっこうに出てこない。つまり、知能は、生まれてからある程度学習をして伸ばしていくものだということが言えるのかもしれません」
(石浦氏)