「実質GDP4.9%増」でもデフレ脱却が
遠いのはなぜか

日経平均株価は1万円割れ
髙橋 洋一 プロフィール

 5月20日、政府は、2010年1~3月期の国内総生産(GDP)について、第一次速報であるが物価変動の影響を除いた実質GDPで前期比1.2%増(年率換算で4.9%増)と公表した。

 菅直人副総理兼財務相は、「景気の着実な持ち直しが続いていたことを反映したもの。外需と経済政策にけん引される形で民需が増加したと考えている」と述べた。新聞では、4.9%増という数字が踊っている。

 全体としては悪い数字ではない。GDPの中身をみても、国内需要は前期比0.6%増(年率換算2.3%増)であった。

 その内訳は、民間消費0.7%増(年率換算2.8%増)、民間住宅0.3%増(年率換算1.1%増)、民間設備投資1.0%増(年率換算4.2%増)。

 これらは事前の民間予測ほどではなかったものの、まずまずという数字だ。

 それに対して、輸出は前期比6.9%増(年率換算30.5%増)とすごい伸びになっている。典型的な外需頼みである。

 あるエコノミストは、テレビで「4.9%増は潜在成長率を超えるすごい伸び」と解説していたが、数字を扱うプロとしては情けない誤解である。成長率の4.9%は「前期比」で、直前の期からの伸び率だ。

 潜在成長率という場合、経済が完全雇用になっているような仮想状況(これを超えるのはなかなか難しい「経済の天井」のイメージ)を想定し、その伸び率を意味する。だから、経済がボトムから回復するときには、前期比の伸び率は潜在成長率を上回るのが普通なのである。

 もし、前期比伸び率が潜在成長率を下回るようだと、潜在成長経済と現実経済との乖離である需給ギャップが拡大し、失業がより発生し、物価は下落傾向となる。

 こうした観点で見ると、まだまだ需給ギャップは30兆円程度残っているので、社会的にみて余分な失業が残り、デフレ脱却はまだまだ遠い(上図)。

 ちなみに、20日に発表された資料には、日本経済でデフレからの脱却が一層遠のいた数字がでている。2010年1~3月期のGDPデフレータ(消費者物価だけでなく、すべての物価指数を含んだもの)は、対前年同期比で▲3.0%だった。昨年7~9月期が▲0.7%、10~12月期が▲2.7%だったので、一層デフレが悪化していることが明らかになった。

 そんなことを思っていたら、翌日21日、日経平均は、年初来安値の9784円と1万円を割り込んでしまった。なんというタイミングの悪さなのか。

 こうした統計数字がよくて、株価が悪いときには二つの考え方がある。一つは、経済の基本条件が良好な中、不安心理だけで下振れているとみるのだ。これは経済が良くなっているから、株価の動きは心配しなくていいということになる。

 もう一つは、株式市場はこれからの経済の動きを映し出す鏡なのだから、将来悪くなることを予想しながら、経済対策を考えたほうが良いという見方だ。

 筆者は前者であることを願っているが、後者のことも念頭において万全の備えをすべきだと思う。

絶好の政策転換のチャンス

 今欧州でギリシャ問題が生じている。ヨーロッパの小国にすぎず、ユーロ圏のGDPのわずか3%程度しかないギリシャ(神奈川県の県民所得と同じ程度)がユーロ全体を下落させている。そのため円高になって、日本の輸出企業を襲うという悪いシナリオが現実味を帯びている。今の株価の下げはこうした世界経済が背景にある。

 さらに、デフレが継続するということは、成長が長続きしないことを示唆している。

 こうした株価1万円割れのような状況のときのほうが政策変更の大義名分がたつので、ここが政策打ち出しのチャンスだ。サプライズにもなるので政策効果も高まる。しかし、今の政権は何も動かない。

 5月21日は日銀金融政策決定会合があった。景気の現状判断を上方修正して、金融政策は現状維持とした。成長分野への新貸出制度というが、中央政府が産業政策をするというコンセプトで、日本の高度成長のときに主張された古めかしい考えだ。

 しかも、その後の研究によれば、政府の産業政策は日本の高度成長には寄与せず、産業政策という名の下で特殊法人等天下り先が潤っただけだったのである。

 21日は政府・日銀が政策転換するのは格好の日だと思っていただけに、政府・日銀の無策は残念だ。では何をすべきだったのか。

 基本は日銀による量的緩和だ。日銀は効果がないと言っているが、データは違っている。リーマンショックのような世界に同じショックがあると、あたかも社会実験のような環境ができ、各国の政策対応の差が経済パフォーマンスの差になるので、政策効果が計測できる。

 1月11日のこのコラム(「私が菅副総理・財務相に期待する理由」)で、リーマンショック以降、各国の中央銀行がバランスシートを拡大させる中で、日本は拡大しなかったと書いた。その結果、日本の物価の戻りは各国より遅い(下図)。この事実から、各国の量的緩和の効果が数量的に計測できる。

 技術上の話を省くが、結果は、日銀は10兆円拡大で0.15%、米国のFRBは1000億ドル拡大で0.09%、英国のイングランド銀行は1000億ポンド拡大で0.5%、それぞれ物価(予想)を押し上げられる。だから、日銀が40兆円程度の量的緩和をすれば、デフレ脱却や円高是正できるだろう。

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