医療・健康・食
消費者が買わないのは「風評被害」ではない。
「健康被害よりパニックが怖い」という政府が信用できないからだ

「由らしむべし。知らしむべからず」は通用しない
〔PHOTO〕gettyimages

 東京電力は5月23日、福島第一原子力発電所の2号機と3号機でも核燃料が溶け落ちるメルトダウン(炉心溶融)が起きていたとする報告書を公表した。震災発生から2ヵ月以上たった5月12日になって初めて、1号機でメルトダウンが起きていたことを認めたが、これで運転中だった3基すべてがメルトダウンしていたことがはっきりした。

 原子炉で水素爆発が起きた直後から欧米のメディアは「メルトダウン」と報じてきた。東電も3月14日の段階では「炉心溶融の可能性は否定できない」としたが、その後、政府は繰り返しこれを否定してきた。本当に政府はメルトダウンしていないと信じ、それを国民に発信し続けていたのだろうか。

「東電の発表までは事実としては聞いていなかった。知っていて嘘をついたとか、黙っていたということではない」

 23日に開かれた衆議院の東日本大震災復興特別委員会でメルトダウンを隠していたのではないかと問われた菅直人首相は、こう答えた。だが一方で、メルトダウンの可能性を認識していたことも示唆している。だとすると、あえて国民に事実を知らせなかったのはなぜか。

健康被害よりパニックのほうがリスクなのか

 SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)のデータ公表でも似たようなことが起きた。放射能の拡散を予測するデータがありながら、事故後50日間にわたって公開してこなかった問題である。

 原発事故の統合本部事務局長として初期から原発対応に当たってきた細野豪志首相補佐官は「放射性物質の放出源などが不確かで、信頼性がなく、公開で国民がパニックになる懸念があるとの説明を受けた」と、意図的に公表しなかったことを明らかにしている。

 正確な情報を伝えると国民がパニックを起こすので、危機情報は時間がたってから徐々に公開する---。

 どうやらこれが、わが国の危機管理マニュアルのようだ。放射能を浴びることによって国民が被る健康被害のリスクよりも、パニックにより引き起こされる混乱のリスクの方を重視する、というわけだ。官邸に近い幹部官僚は「そんなマニュアルがあるわけではないが、政治家がそういう高度な判断をすることはあってもいい」と語る。だが、真実を国民に知らせないことでパニックを回避できるというのは本当なのだろうか。

 5月21日、中国の温家宝首相と韓国の李明博大統領が被災地を訪問。菅首相と共にカメラの前で地元産のサクランボなどを試食して見せた。菅首相は「多分、あすは、こういったものが売り切れるのではないか」と述べ、「風評被害をはねのけるうえで、本当に大きな力になった」と両首脳に感謝した。

 最近、日本では「風評被害」という言葉が大はやりだ。真実でない噂によってモノが売れないなどのダメージを被ることを言う。古くは腸管出血性大腸菌O157問題でのカイワレ大根から、狂牛病の際の牛肉、口蹄疫が広がった宮崎県産の産品などでしきりに「風評被害」が懸念された。

 そして今回は放射能汚染の問題である。だが、一般の消費者が購買を控えているのは「風評」に振り回されているからなのだろうか。放射能汚染の実態が分からないからではないのか。

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