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「東京脱出」が現実になる日
福島第一原発メルトダウン3発の衝撃!
1号機タービン建屋地下に入った作業員が指し示すフェンスには、津波が浸水した跡が生々しく残っている〔PHOTO〕東京電力提供

 250km以上離れた神奈川でセシウムが! 無残にも失敗した水棺作戦は作業を阻む汚染水を増やしただけだった

 もはや福島第一原発には、「棺」すらないのか。事故発生から2ヵ月、東京電力は津波発生直後に1号機が「メルトダウン(炉心溶融)」を起こしていた事実をついに認め、2~3号機についても炉心が溶け出している可能性を示唆した。

「メルトダウンはしていない」

 幾度もそう繰り返してきた発表を自ら覆した東電は、これまで着々と進めてきた「水棺」作業を断念した。いまだ熱を発し続ける原子炉を冷やすため、原子炉格納容器の上部まで水を満たすべく注水を続けてきたが、圧力容器の破損による水漏れで約1ヵ月経っても圧力容器の下底部にわずかにしか水がたまっていないことが判明したからだ。これは単なる作業工程の躓(つまず)きに留まらず、新たに汚染水を増やすというジレンマを生んでいる。

 内閣府・原子力委員会専門委員の青山繁晴氏が言う。

「注水に費やした水が放射性物質に高濃度で汚染され、構内に約10万tもたまっています。この汚染水と、同じく高い放射線量の瓦礫が現場の作業を阻んでいます。原子力の平和利用(原子力発電)が始まって60年ほど経ちますが、このような事態を人類が経験したことはありません。これは原発大国であるフランスの『アレバ社』やアメリカにとってももちろん同じことなので、彼らの動きは鈍い。海外に頼るより、中小企業を含めた日本の技術を結集することが急務です」

「冷却」「放射性物質抑制」「除染・モニタリング」に「余震」対策と「環境改善」も加えた東電の会見(17日)〔PHOTO〕船元康子

 福島第一原発が自縄自縛(じじょうじばく)に陥っているにもかかわらず、東京電力は7月までに原子炉を安定的に冷やし、5~8ヵ月以内に事故を収束させるという目標に固執する。

 5月17日に発表した収束工程表の改訂版では、タービン建屋や原子炉建屋にたまった水を原子炉に戻して冷やす「循環注水冷却」を新たに採用したが、同時に、「うまく行くかは未知数」と認めている。

水素爆発で建屋が吹き飛んだとみられる4号機にも注水が続く。瓦礫撤去後、冷却システムの復旧を目指す〔PHOTO〕東京電力提供

 元東芝の原子炉格納容器設計者で、柏崎刈羽原発や浜岡原発、女川原発の設計に携わった工学博士の後藤政志氏は、「圧力容器が破損している以上、循環システムは奏効しない」と語る。

「汚染水が漏れ続け、圧力容器や格納容器の水位や破損状況すら正確に把握できていない状況で冷却水を循環させるという議論をしてもナンセンスです。1号機では溶けた核燃料や構造材である『溶融デブリ』が圧力容器を貫通して格納容器に落ちている可能性が高く、周囲に水がない状態で新たに水と接触すると水蒸気爆発を起こす危険性もある。

 炉内の温度が急激に高まっていない現段階では、溶融デブリは幸運にも水に浸かっていると考えられますが、それも『温度計が正しければ』という仮定が外れません」

 元京都大学原子炉実験所講師・小林圭二氏も水蒸気爆発を「今後起こりうる事態」と認めながら、溶融デブリが巨大化していく危険性を指摘する。危惧されているのはMOX燃料を使用し、最も高い放射性物質を放出する3号機に他ならない。4月26日には110・4℃だった圧力容器下部の温度は5月9日には154・3℃に上昇し、一進一退を繰り返している。

「3号機の温度が上がったのは、圧力容器の中でバラバラに溶け出していた燃料が底に落ちて合体して塊になり、高温になっていることが原因だと疑われます」

亀戸のセシウムは300倍超に

 圧力容器や格納容器から漏れ出す放射性物質と、構内に溜まっている汚染水は、目に見えない雨となり風となり日本列島に降り注いでいる。多くの国民に衝撃を与えたのが、神奈川県の足柄茶から放射性セシウムが検出されたというニュースだった。

 5月11日、遥か250km離れた福島第一原発から関東平野を越えて、足柄市の生葉から暫定基準値(1kg当たり500ベクレル)を超える1kg当たり570ベクレルを検出、13日には小田原市や清川村でも軒並み基準値を超え、同県6市町村に広がっている。通常は距離が遠いほど放射性物質は少なくなるが、福島方面から流れてきた風が箱根や丹沢など付近の標高の高い山々にあたり、吹きだまったり雨になって放射性物質が降り注いだ可能性が指摘されている。日本大学歯学部専任講師(放射線防護学)の野口邦和氏が言う。

3号機の循環水システムは、放射性物質の飛散防止のために特殊な液体が散布され、緑色に染まっている〔PHOTO〕東京電力提供

「セシウムは人体に入ると、骨や脂肪を除く全身にほぼ均等に広がり、晩発性障害で将来的にがんを引き起こす危険性がある。また、放射性物質は一概に距離と比較して薄まるわけではなく、チェルノブイリでもホットスポット的に遠距離でも検出値が高い地域がありました」

 出荷直前に安全性を強調しようとした検査で予想外の結果が出た生産農家の心中は察するに余りある。そして神奈川で検出された基準値を超えるセシウムは、1300万人が暮らす首都・東京への放射能汚染の懸念をより強くさせるものだ。その深刻さを計る上で近畿大学・環境解析学教授の山崎秀夫氏の研究データは興味深い。

 山崎氏は東京や埼玉、千葉や茨城、福島の土壌中(地下1cm)の1kg当たりのセシウム濃度を実測。東京の数値が茨城や千葉、埼玉で観測した結果より総じて高いという結果が出たのだ。

「首都圏の土壌が汚染されているというのは事実ですが、なぜ東京で比較的高い数値が出たのかは研究の段階です。

 いずれも国の定める5000ベクレル以下の数値ではありますが、福島第一原発が爆発する前はどの地点でもほぼ1kg当たり10ベクレル程度の低い数値でしたので、江東区亀戸の3201という数字を見ればいかに異常な状況かが分かります。

 セシウムは大気中に舞っている土の粒子や粉塵とともに風に乗って飛散したのでしょう。土壌に吸着すると、雨が降ったくらいでは流されずに強く沈着します。土砂降りで泥そのものが流されない限り、いつまでも(セシウム137の半減期は約30年)そこに留まるのです」(山崎氏)

 目に見えない放射性物質には、距離という尺度は必ずしも通用しないのだ。日本環境学会元会長の畑明郎氏は、「15歳以下の子供や妊婦にとっては」と前置きした上で、次のように断言する。

「福島から100km以上離れた東京の新宿区や東村山市の土壌からも放射性セシウムが検出され、3月には幼児の基準値を超える放射性ヨウ素が浄水場から検出されました。東京はすでに安住できる土地とは言い難いのです。また、福島第一原発から1000km圏内は、大なり小なり汚染されています。5月10日には、京都の日本海側にある舞鶴市の椎茸からも微量の放射性ヨウ素が検出されている。収束が見えない以上、汚染が全国にさらに拡大して行くことを危惧しています」

 欧州放射線リスク委員会(ECRR)のクリス・バスビー教授は、事故発生当初から「東京から避難したほうがよい」と警鐘を鳴らしていた。

「ECRRのリスクモデルを元に計算すると、フクシマから200km圏内で今後50年間に約40万人の人が、がんに冒されるだろう。東京にも晩発性障害で相当数の患者が出ると考えている」

 自分や家族の安全を考えた時、首都・東京を去るという選択すら現実感を持って迫ってくるのだ。

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