「議会制民主主義は『期限を切った独裁』」と明言する
菅首相の「浜岡原発停止」決定が
呼び寄せた「6月政局」

日中韓サミットではご機嫌だったが 【PHOTO】Getty  Images

 「首相官邸を『営業停止処分』にしろ!」

 民主党中堅議員は焼き肉チェーン店の集団食中毒事件になぞらえ、こう怒鳴り声が上げた。首相・菅直人が官房長官・枝野幸男ら数人と協議しただけで、中部電力に浜岡原発の全面停止を要請する決定を下したからである。この決定が党内の不信をいっそう強めており、菅の命取りになるかもしれない。

 菅の決断について、国民の多くは評価している。14日から15日にかけて行われた朝日、毎日、読売の各新聞やNHK、日本テレビ、共同通信などの世論調査で59%(朝日)-71%(NHK、日テレ)が評価すると回答している。だが、永田町の評価は厳しい。
批判は、決定の方法と中身の双方に向けられている。この決定が行われた6日夕、官邸の首相執務室にいたのは菅のほか、枝野、経済産業相・海江田万里、官房副長官・仙谷由人、福山哲郎、前首相補佐官・寺田学ら数人だった。

 つまり、この席には国家戦略担当相兼民主党政調会長・玄葉光一郎、地方自治体を所管する総務相・片山善博、地震予測を担当する文部科学相・高木義明、それに厚生労働相・細川律夫、財務相・野田佳彦らはいなかった。事務担当の副長官・瀧野欣彌も同席していなかった。

政権に距離をおきはじめた玄葉政調会長

 決定に関与できなかった玄葉は「いずれは『脱ポピュリズム』の強い政権をつくるためにどうあるべきかを考えている。人気取りに走る政治から脱却しなければいけない」(20日の記者会見)と批判し、“政権内野党”のスタンスになってきた。また、この発表を自身が行うつもりだった海江田も怒りを抑え込むのに苦労している。

 “御前会議”の席上、出席者の一部から「全体のエネルギー政策をある程度打ち出し、その中で浜岡原発停止を位置づけるべきだ」という意見が出された。しかし、枝野が「情報がマスコミに漏れる」と一喝し、決定を主導した。

 これが民主党議員の多くに「独裁的手法」と映っている。本来なら閣議、少なくとも関係閣僚会議を開いて決定すべきことなのに、首相ら10人に満たない人たちで決めていいのか、という批判だ。

 突然の発表が「英断」と受けとめられ、高い評価につながった。その意味では、枝野の目論見は当たった。

 だが、この決定は英断ではない。官邸、経産省がそれぞれ4月上旬から約1カ月検討してきたこと。そうしなければならない窮状があったからだ。次の点を考えてほしい。
①日本の原子炉は電気事業法および施行規則で13カ月を超えない時期ごとに運転を停止させて定期検査を実施することが義務付けられている
②再起動させる際は電力会社と地元自治体との安全協定に基づき、地元自治体の同意を取り付けなければならない

 この2つの決まり事によって、商業用原子炉54基のうち7基が停止状態になっている。このままの状態が続けば来年前半にすべての原子炉が停止となる。この現実を直視すれば、「最も危険な浜岡を全面停止したのだから、ほかは大丈夫」という、もっともらしい論理をつくり、他の原発の再起動を自治体に促すほかなかった。

 しかし、この策は裏目に出ている。根拠が「文部科学省の地震調査研究推進本部の評価によれば、これから30年以内にマグニチュード8程度の想定東海地震が発生する可能性は87%と極めて切迫をしている」(菅、6日の記者会見)ということだけだからだ。

 このため、「福島第1原発の確率は0.0%だった。そこで巨大地震と津波が起きたのに、ほかの地域は大丈夫なのか」という不安が全国的に起き、関西電力の原発がある福井県などはかえって厳しい態度となった。新たな対策を打ち出さなければ、関電、九州電力などでも原発の再起動ができず、今夏、電力不足に陥りかねない。

 菅はかつて議会制民主主義を「期限を切った独裁」(2009年3月の参院内閣委員会)と呼んだことがある。だが、独裁的手法による決定が原発の再起動をかえって困難にさせる一方、党内の菅不信を強める結果を招いている。

 仏・ドービルでのサミット(主要国首脳会議)など主要な外交日程が終わり、来月を迎えると、自民、公明両党など野党は上旬にも内閣不信任決議案を提出する。その際、民主党内からどの程度の同調者が出るかが政局の最大の焦点だ。民主党議員が決断する際に、浜岡原発停止で見えた菅の危うさが影響を与えることになるだろう。(敬称略)

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