「実質債務超過」をごまかす東電決算は
まず会社存続ありきの「国家的粉飾決算」

地域独占は変えず、電気料金値上げも織り込み
最初から会社存続ありきでつくられた東京電力の決算  【PHOTO】getty images

 3月11日の地震発生から2ヶ月経過しているが、最近、福島原発事故関係で地震直後の情報が次々と出てくる。それぞれもっともらしい言い訳をつけているが、これまで政府が情報開示に熱心でなかったことが明らかになって、国民も国際社会も不信感が高まっている。

特に、3月12日の海水注入で政府が中断させたのではないかという批判に対し、公表政府資料で「午後6時の首相指示」を「海江田経済産業相が、東電に海水注入準備を進めるよう指示した」に書き直したりしている。

斑目委員長が「海水を注入した場合、再臨界の危険性がある」といったとしているが、斑目委員長は言っていないと否定している。少しでも原子力をかじった人ならば、冷やすことが優先であることはわかる。専門家である斑目委員長がいうはずないことだ。結局、斑目委員長の意見を受け入れ、政府は再び公表資料を書き直した。

3月12日といえば、午後3時から与野党の党首会談が官邸で行われた日だ。渡辺喜美みんなの党代表からその直前に私宛に電話があったので、当日午後2時からの原子力安全・保安院中村幸一郎審議官が「炉心溶融の可能性がある」と漏らしたこと、CNNやBBCでもメルトダウンの可能性に言及していたことを、そのまま伝えた。

党首会談の席上、渡辺喜美みんなの党代表から「メルトダウンでないか」との発言があったが、菅直人総理は「メルトダウンを起こしていない。大丈夫。」という返事だった。

菅総理がベントを東電に指示したとされているが、12日の午前中、防護服なしでスタッフを同行させて福島原発にいったため、総理一行を被爆させないために東電によるベント作業を遅らせたとしか思えない。こうした点は、いずれ政府から独立した組織での客観データによる歴史検証が必要である。

歴史検証に加えてもらいたいのが、5月13日の政府の賠償スキームと20日の東電決算だ。現代ビジネスでは、興味深い記事が多い。5月18日の磯山友幸さんの「東電上場維持で得をするのは誰か まず存続ありきの「援助スキーム」の闇」に出てくる「東電救済策の説明資料」だ。
 

 元役人の私から見ると、これは政治家への説明で使う資料である。しばしば政治家に対しては、このような対比表とスキームを描いた図(ポンチ絵)で説明が行われ、文章はめったにない。

 13日の賠償スキームの関係閣僚会合決定(閣議決定ではないことに注意!)文書も、それを事細かに説明するというよりも、多くの政治家に対しては対比表を説明するという程度だろう。

この対比表は簡潔であるが、表の作り方によってはミスリーディングになる。というか、官僚は意図的に表を作る。菅政権はまんまと騙された。

菅政権は、法的整理をすると、被災者が救われないと思い込んでいる。中には、法的整理をすると債権債務が確定するので、新たに被災者は賠償債権を請求できなくなってしまうとかいう詭弁を信じ込んでいる者もある。

まったく政治家であることを忘れている。法的整理をした上で、救済機構などの被災者だけ救済する法律を作ればいいのだ。前述の対比表では、単に会社更生法だけを適用し、まったく被災者の救済方法が書かれていない。その部分を補うのが政治家だろうが、民主党政治家は官僚の手下となっている。

本当の損失は10兆円でもおかしくない

 対比表の中で、「会社更生法」のところを「会社更生法+賠償機構」と書き直せば、被災者への賠償、電力事業継続、国民負担の最小化になる。私がこれまで本コラムで書いてきた案はそうしたものだ。

 法的整理を使うのは、東電のステークホルダーに責任を持たせる資本主義経済のルールだ。そうであれば、枝野幸男官房長官の「金融機関に債権放棄を真っ先に求める」発言や、与謝野馨経済財政担当相の「東電融資では貸し手責任発生は理論上あり得ない」発言は、いずれも妄言として片付けることができる。

さらに、20日の東電決算に大いに関係するが、法的整理すべき状況にもなっている。
東電の決算は、当期純損失が1兆2473億円、同期比▲1兆3811億円(連結ベース)であった。これは純資産を半減させるもので、過去に例のない大きな赤字だった。

しかし、本当の損失はそんな程度でない。避難者は5万世帯程度、彼らの生活保障だけで巨額になる。失った資産を含めて一世帯当たり3000万円とすれば、1.5兆円だ。企業も含めると経済損失はその倍以上だろう。汚染水の処理もある。処理コストは1トン当たり1億円といわれるが、すでに汚染水は7万トンになって、これで7兆円だ。となると、10兆円の損失でもおかしくない。



東電の原発事故で東電は加害者であり、加害者負担の原則から東電は賠償責任を負う。原子力賠償法があるが、東電は免責されないことは政府が公言している。東電の純資産は2.5兆円程度なので、どう考えても「実質債務超過」だ。

もっとも、こうした場合の決算での常套句は「確定していない」、「合理的に見積もれない」だ。しかし、実態は見積もれなくても、東電はすでに「実質債務超過」になっている。それは、東電自体が政府に救済を申し出ていることからもあきらかだ。

 賠償スキームは東電の救済策となっており、株式減資や債権カットはないという酷いものだが、とりあえず、20日の決算で「債務超過でない」といいたいために、その作成を政府は急いだ。あえて、その論理をいえば、東電を温存・救済し、今後とも地域独占を継続させ、全国で数%から十数%の電力料金アップとなり、その超過利潤が見込まれるので、それを加味すれば「債務超過にはならない」というものだ。

しかし、その収益見込みは確定していない。2000年の独禁法改正で、すでに電力の自然独占に関する独禁法適用除外規定は削除された。もはや政策として独占利潤は保証できない。つまり、これは国家が仕組んだ粉飾決算ともいえる。

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