鳩山政権は
地球温暖化対策基本法の成立を急ぐな

国連の枠組みでは温暖化は防げない

 過去15年間の実績をみれば、京都議定書が世界的なCO2の排出削減に非力なことは明らか。国際社会は、もっと「政治的に魅力があって、同時に、徹底的に実利的な」排出削減戦略を追究すべきだ――。

 ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のグウィン・プリンズ教授ら日米欧の学者14人が共同で、このほど、地球温暖化を予防する新たな枠組み作りを盛り込んだ報告書「ハートウェル・ペーパー」をまとめた。この地味な論文が、欧州を中心に意外に大きな反響を呼んでいる。

 この動きは、鳩山由紀夫政権にとっても、おおいに参考にすべき動きである。同内閣は、今国会で、国民に地球温暖化対策基本法を強引に成立させようとしている。しかし、この法案は国民に多大な負担を強いるからだ

 支持率が大きく落ち込み、政権が末期症状を呈している今こそ、法案成立という近視眼的な功名獲得に走るようなことは慎むべきだ。むしろ、わが国初の選挙を通じた政権交代とあって経験に乏しく、未熟だった政策立案能力を向上する糧として、失った国民の信頼を地道に回復するきっかけにできるのではないか。

 報告書「ハートウェル・ペーパー」の名前は、日米欧の有識者が今年2月、ロンドン郊外のリゾート地にある王宮のようなホテル「ハートウェル・ハウス」で意見交換を行ったことにちなんで、命名されたもの。

 論文のとりまとめにあたっては、日本鉄鋼連盟、日本自動車工業会、米Nathan Cummings財団、スイスHaffuman財団などが資金協力している。

 中身を簡単に紹介すると、その特色の第一は、昨年12月の第15回気候変動枠組条約締約国会議(COP15、コペンハーゲン国連気候変動会議)の決裂の教訓を活かそうとしている点にある。

 というのは、同会議では、多くの途上国が、今後、先進国のような豊富な電力・エネルギー消費を行えなくなり、経済成長の道を閉ざされるとの懸念から、新たな温暖化ガスの排出削減目標の設置に強く反対した経緯があるからだ。

 そこで今回の報告書では、先進国を中心に薄く広く徴収する炭素税を導入し、炭素の排出の少ないエネルギー源の早期開発に充てるという。そのうえで、地球の環境にダメージを与えない範囲での開発は容認する。現在、世界に15億人程度とされる電気のない生活をしている人々を念頭に置いて「万人に対するエネルギーアクセスの保証」も行う。

 こうしたハートウェル・ペーパーのアプローチは、地球の気温上昇を2度以内に抑えるために、京都議定書の枠組みを延長し、世界の主要国及び主要地域にそれぞれ、CO2などの温室効果ガスの削減目標(2020年までを想定、法的拘束力を持つ)を掲げさせようとしている国連のアプローチと大きく異なる。

 一方、世界的に見た場合、京都議定書型のアプローチの中で、最も中期目標の削減幅が突出しているのが、鳩山内閣だ。同内閣は、地球温暖化対策基本法案について、今国会での強行採決も辞さない構えをみせている。

 ちなみに、同法案は、日本国内の温暖化ガスの排出を2020年までに、1990年比で25%削減するという中期目標を盛り込んでいる。 

 この法案が懸念されているのは、単に、麻生太郎前政権が目指した中期目標(15%減)よりも、大胆な削減を目指しており、産業界の負担が重くなることだけではない。

 実際に中期目標を実現しようとすると、暖気料金が高騰する可能性がある。所得の多い人は政策支援を受けて自宅に太陽光発電設備を設置して電気の売却収入を得るなどのメリットを享受できる。これに対し、所得が低い人は高騰した電力料金を負担せねばならないなど重い負担を強いられかねない問題とされている。

 実際、政府が昨年12月に国民全体を対象に実施した同法案に関する意見募集では、1376件の回答のうち86%の人が何らかの形で「反対」か「懸念」を示していた。これは、いわくつきの法案なのである。

オバマ政権も消極的な姿勢に

 もちろん、欧州では、ハートウェル・ペーパーを批判する声も少なくない。

 例えば、COP15を推進する立場にあるEU(欧州連合)のヘデガー環境大臣(元デンマーク環境大臣)は、パーパー公表直後に、

「(COP15の決裂に伴う)大きな失望から、違うアプローチをみつけるべきという意見が出るのはわかる。が、今は、世界の主要国が気候を守り、気温上昇を2度以内に抑えるために責任を分担することに合意している。まだ、京都の枠組みをぶち壊すのは早過ぎる」

 と批判的なコメントをした。さらに、具体的な数値目標が盛り込まれていないことから、効果に懐疑的な声もある。

 しかし、ハートウェル・ペーパーが、これまでのCO2の削減のみを軸とした対策について、「黒色炭素とオゾンを低層大気圏から排除するなど、CO2削減よりも簡単に温暖化防止のために行動できることがある」としていることに、英エコノミスト誌は「いいポイントなので繰り返し主張すべきだ」とし、ぺーパーが「森林の伐採を抑制すべきだ」と主張している点を、同誌は「主流派の考え方といえる」と高く評価した。

 この欧州の動きに対し、京都議定書の枠組みから離脱するという"前科"を持つ米国では、ここへきて、環境関連法案作りにおけるオバマ政権、議会の間に、消極姿勢が目立ち始めている。

 新聞報道によると、米環境保護局(EPA)が今月13日に公表した工場などの温暖化ガスの排出規制の対象が、当初の予測より大きく絞り込まれるケースがあったという。

 こうした国際情勢を踏まえれば、鳩山内閣は先を急がず、少し立ち止まって、主要国に先駆けて踏み込んだ姿勢を表明したことの効果を検証してみるべきである。

 無理を重ねて、日本だけが引き続き前向きな姿勢を維持したとしても、世界の尊敬は得られない。逆に、4月半ばに米ウォールストリート・ジャーナルに「ハラキリ」と揶揄されたように、日本の高邁な理想は、主要国から無視されているのが実情だ。

 地球規模でみると、ほとんど効果が無いにもかかわらず、日本だけが高い目標を保って、国民に重い負担を強いる結果に終わる公算が強まる一方である。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら