投機目的の「マンション離婚」まで横行する
北京不動産バブル

都心部は東京を抜いた!

 5月7日に大連で開かれたある大型の不動産投資フォーラムに、いま中国で「時の人」である任志強・華遠地産会長が登壇し、基調講演を行った。任会長は、2009年の中国人上場企業経営者番付でトップの707万元(1元=約13.5円)の年俸を得た「中国の不動産王」だ。

 だが最近は、「不動産業界の代弁人」を自認していて、歯に衣着せぬ毒舌ぶりで、「任大炮」(大口叩きの任)というニックネームのほうが有名だ。

 「任大炮」の放言は、とどまるところを知らなかった。曰く、

「いまの中国が進めているのは、計画経済ではなくて市場経済だ。市場経済とは、モノの価格を市場に委ねるということ。その結果、不動産価格が上昇しても、それは市場原理によるもので、ことさら騒ぎ立てるべきものではない。そもそも貧乏人が高い家に住もうと夢想する必要なんかない。
  それは、大学出たてのペイペイが株に手を出す資格がないのと同じことだ。いまの住宅価格が半分になったって、高いと妬むヤツはどうぜ妬むんだから、(そのうち政府は諦めて)価格を下げる措置を取らなくなるだろう」

 こうした発言に、聴衆の中から、堪忍袋の緒が切れた一青年が立ち上がって、「お前なんか死ね!」と絶叫。自分の履いていた靴を、やおら壇上の「任大炮」に向かって投げつけた。慌てて警備員が飛び出し、青年を取り押さえる。

 任会長は不適な笑みをこぼすと、イラクで同様の目に遭ったブッシュ前大統領を引き合いに出し、「これでオレもアメリカ大統領並みになったな」と嘯いたのだった。

 中国の不動産バブルが膨張するにつれ、こうした「富める者」と「持たざる者」の対立は、抜き差しならないものになってきている。

 5月8日付『新京報』のアンケート調査によれば、一般の北京市民が北京市の第4環状線内(東京で言えば23区内のようなもの)に60㎡のマンションを買うには、44.6%の市民が、60年以上の収入を必要とするのだ。北京の中心街のマンション価格に至っては、いまや東京都心部を凌いでいる。

 こうした状況に、事態を重く見た中国政府は、ついに本腰を上げて「火消し」を始めた。

 4月17日、政府は、「一部都市の住宅バブルを断固として食い止めるための国務院通知」を発表。この通知によれば、今後、一家庭あたり3軒目以降の住宅を購入する際には、住宅ローンは使えない。

 また、その都市の戸籍がない住民は、一年以上の納税証明がないと住宅ローンを組めない。いわゆる、「房不過三」(三軒目の家を持たせない)という策を講じたのである。

 この措置と合わせて、国務院常務会議は、「2軒目以降の住宅購入の際は、頭金50%以上、住宅ローンの利率は通常の1割り増し」という措置を、不動産業界と銀行業界に要求した。いずれも、投機としての住宅購入を防ごうという苦肉の策である。

 今回の措置に対しては、(土地を放出する)地方政府、(買い占める)不動産会社と共に、住宅バブル創出の黄金のトライアングルを組んできた銀行も、動きが早かった。例えば中国4大銀行の一角、中国銀行は、「一家庭あたり2軒目以降の住宅ローンは設定しない」と発表。

 他の大手銀行も独自の対応策を取り始めた。「空気」に敏感な銀行業界は、「お上」が今度こそ本気であることを感じ取ったのである。

 実際、今回の措置は、1970年代末に改革開放政策を取り始めて以降の中国で、住宅に関する「第3の波」と捉えられている。「第1の波」は、1998年7月3日に、時の朱镕基首相が出したいわゆる「23号文件」で、「住宅の供給を停止する」という措置だ。

 社会主義=国有企業=住宅供給という「常識」を破壊し、「今後は家は勝手に見つけるべし」と国民を放り投げたのだから、社会に多大な影響を与えた。

 「第2の波」は、2003年8月3日に、就任して間もない温家宝首相が出した「18号文件」で、「不動産は市場経済に委ねる」とした。ここから、いまの中国のマンションブームが加速化していったわけである。だが、過去の2つの大波が、市場経済化を推進する役割を果たしたのに較べて、今回の「第3の波」は、前2回の揺り戻しである。

人民元切り上げの序曲

 このように、政府が本気度を見せたことで、「絶対に崩れない」と信じられていた不動産神話も、崩壊を始めた。この措置が出てから1週間で、首都・北京の不動産価格は、一気に45%も下落、契約戸数も38%に減った。それでも4月の住宅契約戸数は、3万4917軒に達したが、5月はその半数にも届かない見込みだ。

 これら一連の措置から約1ヵ月を経たいま、まさに「上有政策、下有対策」(お上に政策あれば下々には対策あり)というわけで、関係各者は、様々な対策を取り始めている。まず、北京の不動産業界が一斉に宣伝し始めたのが、「私家農場」(プライベート・ファーム)である。

 北京市郊外の農地の一角に、「私家農場」なる小型の別荘を持つ。価格はマンションの10分の1ほど、日本円にすれば300万円くらいから買えるので、住宅ローンとは無縁だ。週末はここで過ごし、新鮮な空気と食材に触れ、身も心も癒やそうというわけだ。私もすでに、街頭で30枚は「私家農場」のビラをもらったので、相当な勢いで拡がっているものと思われる。

 また、それでも投機目的でマンションを買って儲けたい一部の筋で流行っているのが、「マンション離婚」である。一家庭で2軒までということなら、離婚すれば「二家庭」となり4軒までOKとなる。別に紙の上で離婚しても、素知らぬ顔で同居し、ほとぼりが冷めるのを待って、また「復縁」しようという魂胆だ。

 それでは銀行業界は何をしているかというと、どうやら「人民元切り上げシフト」を取り始めたようだ。「あくまでも個人的意見」と断った上で、知人の銀行員は言う。

「今回の引き締め措置は、人民元切り上げの序幕と見ています。国内の不動産価格を冷まし、動揺を少なくしたところで、一気に人民元を切り上げようという意図ではないでしょうか」

 ともあれ、日進月歩ならぬ日進月異の中国ではある。

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