経済の死角

東京電力「疑惑決算」に出される「不毛監査意見」

会計のプロが警鐘

2011年05月23日(月) 在ロンドン会計評論家 細野祐二
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東京電力の清水正孝社長

 難航していた東京電力の決算がやっとのことで5月20日に公表される。共同通信の配信では、東京電力はこの決算で、廃炉費用等による1兆円の特別損失を計上し、当期純損失は8000億円前後になるという。東京電力の平成22年12月第三四半期末の連結株主資本は3兆175億円なので、この決算では2兆円の株主資本が連結貸借対照表に計上されることになる。同じく1兆8812億円あった連結利益剰余金も1兆円以上が残される。

 東京電力の清水正孝社長は、5月10日に首相官邸を訪ねて政府の財政支援を要請したが、それだけ財政困難なはずの会社が、震災後の決算で1兆円を超える利益剰余金を計上できるというのは、どう考えてもおかしい。財政支援と1兆円の利益剰余金は、会計理論上両立できないのである。以下に論証する。

 東京電力の平成23年3月期決算では、通常の事業損益計算とは別に、(1)資産減損、(2)原発廃炉、(3)損害賠償という3つの特別損失の計上を行なわなければならない。公表財務諸表と公開資料のみに基づく私の分析では、どう贔屓目に積算しても、資産減損が7000億円、原発廃炉が2兆4千億円、損害賠償が1兆6000億円となるので、東京電力の平成23年3月期末の貸借対照表の実態は債務超過になっていると思う。

 おそらく、東京電力の今回の決算では、税効果資産などの資産減損を中心に取り上げ、廃炉費用は原発事故のない平常廃炉計算を行い、損害賠償は仮払の500億円だけを計上したのであろう。

追記があっても免責されるわけではない

 そこで、財政実態からかけ離れた東京電力の財務諸表に対する監査法人の監査意見が問題となるが、新日本監査法人は、これに対して適正意見を出すことになっているはずである。上場会社の決算会計処理は、逐一監査法人の了解を得て行われるので、監査法人の適正意見の担保がなければ東京電力も決算発表などできるわけがない。だから、東京電力の決算発表は1ヵ月も遅れたのである。新日本監査法人は、既に適正意見の手形を振り出していると考えるべきであろう。

 ただし、新日本監査法人も、この財務諸表の問題点は痛いほど認識しているはずなので、その監査報告書には、廃炉費用と損害賠償について追記を付けるであろう。もちろん東京電力の継続企業の前提にも追記が付く。

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