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中国の「意図せざる人民元安」がもたらす国際金融リスク

米中貿易戦争は一筋縄ではいかない
安達 誠司 プロフィール

だが、話は単純な一方通行では終わらないかもしれない。

すなわち、現在の国際金融市場の状況がトランプ大統領に全面的に有利かというと必ずしもそうではない。このまま人民元安が進む状況下では、中国は、米国債の売却を加速させることが想定される。

2011年以降、中国の米国債保有残高が急激に減少した局面が2回あった。1回めは2011年、2回目は2016年半ばから2017年初めにかけてである。2011年の際には米国長期金利は低下したが、2016年半ばから2017年初めにかけては急上昇した。

確かにこの時期には利上げも実施された。だが、長期金利の上昇は利上げの幅を上回り、国債のイールドカーブがスティープニング化(長短金利差が拡大)した。

インフレ率(コアPCEデフレーター)は前年比1.8%近傍で高止まりし、予想インフレ率も1.8%台から2.2%台へ上昇していた時期であったため、国内要因で上昇した可能性が高いが、それを差し引いても中国による米国債売却が長期金利に影響を与えていた可能性は残る。

 

今回も米国でインフレ率の上昇が見られ始めていることから、このタイミングでの米国債売却は、最近は比較的落ち着いて推移していた米国の長期金利を再び急上昇させる懸念がある。この長期金利上昇が米国の株価にマイナスのインパクトを与えることも十分ありうる。そのため、人民元相場の行方は米国の長期金利にも影響を与える可能性がある。

現在、米国では「逆イールド(短期金利の水準が長期金利の水準を上回ること、金融活動の抑圧から景気減速の先行指標だといわれている)」の可能性が取り沙汰されているが、中国当局の米国債売却スタンス如何では、一転、イールドカーブのスティープニング化の可能性も出てくる。

そして、もしそのようなことがあれば、2017年のFRBがそうであったように、マネタリーベースの再拡大などの緩和措置がとられ、世界のマーケットの状況が一変するかもしれないので注意が必要である(これは世界のマーケットにとってはいいことだが、日本にとっては円高がリスク要因となる)。