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中国の「意図せざる人民元安」がもたらす国際金融リスク

米中貿易戦争は一筋縄ではいかない
安達 誠司 プロフィール

為替介入か、市場短期金利の引き上げ

中国通貨当局は人民元安を阻止するために色々な策を講じてきた。具体的には2015年から2016年にかけて主に為替介入(人民元買いドル売り)を実施して人民元安を防ごうとした。

中国の為替介入には、外貨準備が用いられることが多い(多くが米ドル預金か米国債で運用されているため、それを解約して人民元を購入する)が、その効果はほとんどなく、人民元安は逆に加速した。

これは、為替介入による外貨準備の減少がかえって人民元の先行きに対する不安を招き、逆に資産流出を加速させてしまったからであった。そして、このような為替介入による外貨準備の減少と人民元安加速の「いたちごっこ」は2016年末まで続いた。

そこで、2017年以降、中国通貨当局は為替介入ではなく、市場短期金利の引き上げによって、これ以上の人民元安を阻止する政策に転換した。人民元の対ドルレートは米中の市場短期金利差にほぼ連動して動いていたので、中国の市場短期金利の引き上げは見事に奏功し、2017年は、逆に人民元高局面に移行した。

この人民元安抑制政策の中、中国の市場短期金利であるShiborの3ヵ月物金利は、2016年末の約2.9%から約4.9%近傍にまで上昇した。短期金利で2%ポイントの引き上げはかなり強力な金融引締め効果をもたらす。

金利上昇による金融引締めは、通常、9ヵ月から1年程度のタイムラグがあるため、この金利上昇は、今年(2018年)の中国経済の減速に波及しつつある。消費や生産といった実体経済は減速というより一進一退(横ばい)という感じだが、金利上昇に敏感な株式市場や主に都市部の不動産市況が崩れ始めている。特に、中国の株価は2015年に大幅下落を経験しており、その後も反発もほとんどない。

 

株価の割高/割安を示す参考指標の1つであるPER(株価収益率)は11倍前後で推移しており、世界の主要株式指数の平均(約15倍)と比較しても割安な部類に入る。通常なら、「割安株」の下落幅はそれほど大きくないはずだが、今年に入ってからの中国株の下落率は他の株価指数と比較しても高い。そして、これは、比較的好調だった香港の株価指数にも波及している。

このような状況下で、中国通貨当局は、人民元安阻止のためにこれ以上市場短期金利を引き上げることは困難になっている。そのため、この人民元安局面ではもっぱら為替介入が実施されている。だが、前述のように、為替介入に効果がないことは2015、2016年の経験から明らかである。

〔PHOTO〕gettyimages

中国が米国債売却を加速させると

さらにいえば、現在、米国では、FRBによる利上げが進行中である点は中国当局にとっては頭の痛い話である。

米国の政策金利であるFFレートは現在1.8%前後で推移している。FRBが考えるFFレートの長期的な均衡水準は3%であるので、米国経済が明確に減速の兆候を示さない限りは、今後も粛々と利上げを進めていくだろう。そして、米国の利上げが進めば、米中短期金利差的には人民元はさらに下落する可能性が高まる。

この局面で中国通貨当局が短期金利を引き上げることができなければ、ますます資本逃避が加速していくであろう。

そこで、中国政府が資本取引規制を強化すれば、社会不安も増すし、海外からの資本流入が激減するリスクもでてくる。そしてこれは、現在進行中の中国から周辺アジア諸国(ベトナムやラオスなど)への製造業の生産拠点移転に拍車をかけ、中国経済の成長力をよりそぐことにもなりかねない。

ここまでの話では、いまや、FRBによる金融政策の正常化もトランプ政権にとっては、対中国封じ込め政策の有力な武器となりつつあるということになる。