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中国の「意図せざる人民元安」がもたらす国際金融リスク

米中貿易戦争は一筋縄ではいかない

株安と通貨安が進行中

トランプ政権当局者によれば、トランプ大統領は中国製品向けに新たに2000億ドル規模の品目を追加する見通しであるとのことである(7月10日付のニュース)。

中国の報復関税措置への対抗策ということだが、現時点では中国も一歩も引かない構えであることから、今度は中国が追加の報復関税措置を講じる可能性が高い。米中貿易戦争は泥沼化の様相を呈しつつある。

この「米中貿易戦争」に関する内外の識者の見方は様々であるが、どちらかというと、仕掛けた側のトランプ大統領を「これまで世界経済の成長を牽引してきた自由貿易体制を破壊する不届き者」として批判する声の方が多いように思える。

トランプ政権は、過激なリップサービスで世間を煽る一方、水面下でひそかに交渉を進める手法が得意なようなので、どこかで米中両国が妥協するというシナリオも全くないではない。その行方は表面的なメディアの報道を追いかけていても全くわからない。だが、そうした不透明感を含め、この「チキンレース」は世界のマーケットにも大きな影響を与えうる。

 

そのマーケットで現在進行中なのは、中国株式市場の調整と人民元安である。7月10日の午前の段階で、上海総合指数は年初から約14.5%の下落となっている。また、中国人民元は今年のピークから約7%の下落となっている。

4月17日に中国の中央銀行である中国人民銀行は預金準備率を1%ポイント引き下げ、6月24日にはさらに0.5%ポイント引き下げており、人民元安は貿易戦争をにらんだ中国通貨当局の意図的な誘導ではないかという見方もある。

だが、当局は同時に外為市場で人民元買いドル売り介入を実施しているし、中国の銀行に対してもドル売りを促しているということなので、「意図せざる人民元安」の可能性の方が高いと思われる。

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富裕層が「こっそり」

ところで、中国の国際収支統計をみると、2015年以降、いわゆる「誤差脱漏」の赤字が目立つ。

「誤差脱漏」とは、当局がその資金のやりとりを把握できていないが、国際収支統計のバランス上(国際収支統計は複式簿記の原理が適用されているので最終的に貸方・借方はバランスする)存在しているはずの資金のやりとりがまとめて記載されるものである。

中国の国際収支上の「誤差脱漏」は、2009年以降、常に赤字であるが、これは中国から海外へ当局が把握できない資本が流出し続けていることを意味する。

この赤字額は、2009年から2014年まで平均で年550億ドルだったが、加速度的な人民元安が始まった2015年から2017年にかけては平均2215億ドルに拡大した。

つまり、これは人民元安の局面で中国当局が把握できない逃避資金が年率換算で約4倍の規模に膨れ上がったことを意味する。

一般的に証券投資などの「資本・金融収支」は経常収支とバランスするといわれているが、中国の場合、経常収支黒字は減少トレンドにあり、2017年はGDP比で1.3%の水準であった。しかも、2018年第一四半期には15年振りの赤字(▲0.9%)を計上している(ちなみに2007年には同9.9%であった)。だが、誤差脱漏の赤字は増え続けている。

教科書的な国際収支の動きでは、経常収支の減少は、国内の貯蓄・投資バランスでの貯蓄超幅の縮小を意味する。中国経済の成長の発展段階を考えると、経常収支黒字の減少トレンドは、経済が消費を中心とした内需の拡大をテコに新たな成長ステージに入るべきところであることを意味している。

したがって、通常であれば、経常収支黒字の縮小と同時に資本・金融収支の赤字(海外投資)もそれなりに縮小し、その分のお金が消費などの形で国内で使われれば理想的といえる。

だが中国の場合、そうはなっていない。もちろん、中国人民が外債投資などの海外投資に目覚めれば別だが、残念ながら、中国の資本・金融収支は2016年以降、「黒字(国内へ流入超)」となっている。

つまり、中国から海外への資本流出は、中国の富裕層が自国の将来を懸念して「こっそりと」資産を海外へ逃避させている可能性が高いわけである。

そして、誤差脱漏の赤字が、人民元安が加速している局面で増えたことを考えると、人民元が下落すればするほど中国国外へ資産を逃避させるインセンティブは高まっている可能性が示唆される。中国当局にとって資産流出は国内経済の成長マネーの流出を意味するのでなんとしても阻止したいものであろう。