イラストレーターの三好愛さんが原稿を読んで書いた「吃音の連続イメージ」『どもる体』より
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100人に1人が持っている「吃音(どもり)」の謎

歌だとなぜどもらないんだろう?

しゃべれるほうが、変

レストランで注文をする。取引先に電話をかける。自分のアイディアをプレゼンする。私たちは日々、さまざまな「しゃべる」場面に出くわしています。

でも、しゃべるってそんなに当たり前の行為なんだろうか?

子供の頃から吃音を抱えていた私は、しゃべるという行為の不思議について、日々考えさせられる人生を送ってきました。
 
なぜ自己紹介で自分の名前につまってしまうのか?

なぜ大勢を前にプレゼンするときは問題ないのに、電話だと言葉が出にくくなるのか?

なぜ歌うときはどもらないのに、音読では体が締め付けられるように苦しいのか?

著書『目のない人は世界をどう見ているのか』では、「視覚がない」人から見える世界を切り取るなど、さまざまな「人体の不思議」を研究している伊藤亜紗さん。話題の新刊『どもる体』でまったく新しい「身体的吃音論」を展開した伊藤さんが、「吃音」という人体の謎のひとつを分析する。 

文/伊藤亜紗 イラストレーション/三好愛

 

実はメジャーな障害

現在の私は、日常的なコミュニケーションには支障がない程度の、軽度の吃音持ちです。それでも言葉を出すためにさまざまな工夫が必要ですし、アワアワする自分に途方にくれたりすることもしばしば。

吃音というのは、実はかなりメジャーな障害です。子供では20人に1人が、成人でも100人に1人が吃音を持っているという統計が出ています。
 
有名人で言えば、マリリン・モンローや田中角栄もそう。ジョージ六世の吃音は『英国王のスピーチ』として映画化されていますし、90年代にプッチンプリンのCMで人気を博したスキャットマン・ジョンも、吃音を生かしてあの高速スキャットを生み出しました。

二期に渡って総理大臣を務めた田中角栄は、吃音を克服するために浪波節を習っていたという Photo by Getty Images

「連発」はバグ、「難発」はフリーズ

吃音にはいくつかの代表的な症状があります。

まずは、連発。

「たまご」と言おうとして、「たたたたまご」となってしまう場合のように、同じ音を繰り返し発してしまう症状です。

言葉を出すためには、発声器官をコンマ秒単位で変形させなければなりません。連発時は、たとえば「た」を出すためのポジションから、「ま」を出すためのポジションへの移行がうまくいかず、「た」でアイドリングが生じていると考えられます。

連発は見た目には目立ちますが、本人の感覚としては、必ずしも苦しさはありません。体のタガがはずれて、自動走行しているような状態だからです。

幼少期の症状は基本的に「連発」です。自動走行なので、覚えていない人も多い。ところが多くの子供が、成長するにつれて、連発することを恥ずかしいと感じるようになります。すると生じるのが、次の「難発」という症状です。

難発とは「……たまご」のように、最初の音が言おうとしても出ない症状です。連発を避けようとして体が緊張して硬くなり、息そのものが止まってしまう。言葉が体によって拒絶される、本人にとっても苦しい状態です。連発が「バグ」だとすれば、難発は「フリーズ」に相当します。