『ブラックペアン』撮影現場にて 撮影/DAA(アンチエイジング医師団)
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手術成功率99.7%の外科医が『ブラックペアン』監修で知ったこと

求められる「日本の医療ドラマ」って?

2018春ドラマの視聴率1位

日本人は医療ドラマが大好きだ。毎クール2~3作品は医療系ドラマがラインナップされている。2018年春の民放ドラマ視聴率ランキング1位(最終回18.6% 平均14.3%)は、TBSドラマの『ブラックペアン』だった。

そしてこの7月からも自閉症でサヴァン症候群の小児科医の成長を描く『グッド・ドクター』(フジテレビ)、アルバイト看護師から産婦人科の現状を描く『透明なゆりかご』(NHK)などが注目されている。

ドラマでは欠かせないジャンルではあるが、実際と異なる描かれ方に、医療現場から抗議を受けることも多い『ブラックペアン』も、2話放映後に、日本臨床薬理学会から加藤綾子演じる“治験コーディネーターに問題がある“とTBSに抗議表明が提出された。

内容は、手術担当教授と高級レストランで密会、治験のお礼としての高額な金品の提供など、実際の治験コーディネーターの仕事とはあまりに違いすぎる職務や仕事姿勢に、抗議をした学会以外からも批判が多く集まったのだ。当然ながら、会食も金品の提供など実際の治験コーディネーターはしない。

さらに、一般財団法人 日本医療機器産業連合会からも「医療機器治験の実際について」という抗議文がホームページに掲載された。治験コーディネーターは上記の問題以外に、患者にきちんと説明なく治験を開始するシーンも。実際には、治験コーディネイターなどから十分な説明があり、患者の自由意思で決めるもので、理解と同意がない限りは行われないことを抗議文では説明していた。

毎シーズン人気の医療ドラマ、「ドラマはフィクション」で許されるのか? リアルはどう描くべきなのだろか?

 

医学界からの抗議の歴史

実は、医療ドラマの歴史を紐解いてみると、『ブラックペアン』以外にも、医学界から抗議を受けた作品はいくつかある。

有名どころから行くと、橋田壽賀子のオリジナル脚本で、女医を通して戦後日本を描いたNHK大河ドラマの『いのち』(1986年)。「眼科の描き方に問題がある」として、眼科医会からNHKに送られた抗議文が読売新聞に掲載されている(1986年8月31日付)。

心療内科を舞台に心の病を持つ患者の症例を中心に描いた『心療内科医・ 涼子』(1997年 日本テレビ)では、メンタル疾患の描き方、心療内科医の診察の仕方などに問題が多く、実際の患者が心療内科への受診をしなくなることを危惧し、日本心療内科学会が日本テレビに抗議文を出している(読売新聞1997年12月9日付)。

このドラマはかなり大きな論争を呼び、サンデー毎日(1997年12月7日号)で、『「心療内科医・涼子」に現場医師が大ブーイング?』という記事が組まれ、医療指導をした東邦大学大森病院心療内科が心療内科の範疇を逸脱していると抗議をしている。

死亡率が実際の3倍以上

抗議に対して「ドラマはフィクションなんだからエンターテインメントとして観ればいいではないか」という意見もある。しかし、医療ドラマの影響が、医療への認識や不信感に影響を及ぼすと指摘する専門家もいる。

ベルギーのルーベン・カトリック大学のジャン・ヴァンデン・ブルク博士は、2002年に救急医療の専門誌『European Journal of Emergency Medicine』で、医療ドラマの影響研究調査を発表している*1)。

大学生820名を無作為に選び、医療ドラマを観る習慣、心肺蘇生の知識についてなどのアンケートを行った。その結果、医療ドラマを観る習慣が高い人は、緊急時に心肺蘇生をすればその後助かる、と予測値が高いことがわかった。ブルク博士は、医療ドラマが、心肺蘇生の過大評価につながっている可能性がある、と指摘する。

また、米国外傷外科学会が発行の専門誌『Trauma Surgery & Acute Care Open』では、アメリカのセント ジョセフズホスピタル アンド メディカルセンターのローズマリー.O.シェローネ氏らが、人気医療ドラマ『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』の問題点を指摘。シーズン1~122に登場する患者290例と、実際に米国立外傷データバンクで2012年に登録された患者4812例を比較して、現実とドラマの治療の違いをレポートしている(2018年2月)*2)。

ドラマでは、死亡率が実際の3倍以上も高く、重傷者は、実際よりも早い期間で退院していた。ドラマチックさが求められることで、ありがちな症例でないものがクローズアップされ、それが現実の医療と思われてしまう危険性があり、医療の満足感低下にもつながる可能性があることを指摘している。

確かに、「ドラマはフィクション」とはいえ、無意識のうちにそこに描かれていることが「医療情報」として刷り込まれている可能性は否定はできない。観る側にもそんな危険があることは、作り手側が認識しておくべきなのかもしれない。