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日本人はなぜ「醜くても勝つ」より「美しく負ける」を好むのか

日本人の脳に迫る⑤
中野 信子 プロフィール

ところが、自分の利益、自分の勝利だけを優先して戦略を立てるという行動は、せっかく備え付けたこの性質に真っ向から反してしまいます。個の都合を優先し、明文化されていないにしても全体の暗黙のルールという社会性を破壊する行為をとるとは何事か、と糾弾されてしまうのです。

これはサッカーに限った話ではなく、不倫であったり“不謹慎”な発言であったりしても同様です。その個体の行動を、社会性の高いものに改めさせようとして、これ(社会性というルール)に従わないとは何事か、と言わんばかりに一斉に攻撃が始まります。

この攻撃には大きな快感が伴うのですが、なぜ快感なのか、その理由については、また別の回で説明していきましょう。

 

最後通牒ゲーム

とはいえ、自分の利益を追求するという行動を完全に止めてしまうと、今度は個体としての生存が危うくなります。そのため、社会脳の機能にはある程度の柔軟性が付与されています。

わかりやすくいうと、「利他行動を優先しろ」と他者には攻撃しても、自分の利益は優先できてしまう、という程度のゆるさで社会脳は設定されている、ということです。

このとき、人によっては自分の利益を優先せず、利他行動を優先し続けるタイプがいます。一般的な見方からすればこの人たちは、とても素晴らしい人たちのように見えるのではないでしょうか。しかし、危険な側面も持っています。

最後通牒ゲーム、というよく知られた心理課題があります。これはふたりで行われ、一方がリソースの配分権、もう一方が拒否権を持ちます。配分権を持った側は自由な割合でリソースを配分でき、自分の取り分をどれだけ多くしてもいいのですが、もう一方に拒否権を発動されてしまうとどちらの取り分もゼロとなる、というルールです。

拒否権を発動させないよう、自分の取り分をどれだけ多くできるか、というゲームなのですが、だいたい落ち着きどころとしては、配分権を持つ側が7割以上の取り分を提示すると、拒否率が8割に跳ね上がるという傾向になるようです。

この課題で、拒否権を発動しやすいのが、実は利他行動を優先し続けるタイプの人たちです。これは京都大学の高橋英彦先生らによる研究結果ですが、拒否権を発動しやすいのが元来攻撃的なタイプの人というわけではなく、利他行動を優先する人であったという結果は当初驚きをもって受け止められたようでした。