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自衛隊「イラク日報」と日中戦争「日本兵の投稿雑誌」の意外な共通点

戦地で生まれた「異文化理解」

今年4月、イラクに派遣されていた自衛隊の活動記録である「日報」が公開され、大きな話題となった(全文はwebで公開中:http://iraq-reports.herokuapp.com/, https://www.asahi.com/articles/ASL4J669JL4JUEHF016.html)。

『日中戦争 前線と銃後』を上梓した歴史学者の井上寿一氏は、この「日報」に書かれた自衛隊員たちの率直な言葉の中に、かつて中国大陸で戦っていた旧日本陸軍の兵士たちが残した述懐と共通する、「ある視点」を見いだしたという。

話題になった「等身大の自衛隊」    

今年(2018年)4月16日、防衛省は自衛隊のイラク派遣の日報435日分、1万4929ページを公表した。その後も調査は続き、現時点で陸上自衛隊派遣分は472日分の日報が確認されている。

例えば、2005年7月5日の日報には「サマワ宿営地付近にロケット弾着弾」「連続発生の可能性は否定できず」などと記録されている。2006年1月22日の日報は「戦闘が拡大」と記している。これらの記述から「非戦闘地域」で活動していたはずの自衛隊のPKO(国連平和維持活動)をめぐって、政治問題化した。

そもそも、このような「戦闘地域か否か」といった議論は、PKOの現実から遊離している。あくまで日本国内の政治のためにつくられた問題であって、国際的には通用しない議論だろう。

一方で、日報の公表は思いがけない広がりを持った。そこでは自衛隊の活動の等身大の姿が示されていたからだ。

あらためて、いくつか印象的なエピソードを引用してみよう。2006年1月21日、「イラク軍兵士との『にらみ合い』」に関するエピソードは、次のようなものだ(https://www.asahicom.jp/news/esi/ichikijiatesi/iraq-nippo-list/20180416/370/051202.pdf)。

〈イラク軍兵士と初めて会った時は少し怖かった。30~40名が駐車場にたむろしている。私が歩いて通りかかると、みんなこっちをにらむ。にらみ合いが続いた後、沈黙に耐えかねて「アッサラーム・アレイコム」と挨拶してみた。

彼らが一斉に「ヤパーニ(日本人)、グッド」「サマーワ」等々と言いながら私を取り囲んだ。恐怖を感じたが、彼らは一様に日本人と会ったことを喜んでいるように感じた〉

 

また、2005年12月2日の日報にはつぎのようなやりとりが記録されている(https://www.asahicom.jp/news/esi/ichikijiatesi/iraq-nippo-list/20180416/370/051202.pdf 、相手の国名は黒塗りでわからない)。

〈「日本人の宗教は何?」

「一般的には仏教徒だけど、日本人は何でもありだ。例えば、クリスマスを祝うし、元日には神社にお参りするし、先祖のお墓は仏式が多い。わかるかな?」

「聞いたことがある。すごく興味がある。神社ってどんな神様がいるんだ?」

「詳しいことはよく知らないけど、日本には『八百万の神』がいて、何でも御神体になる」

「800万も神様がいるのか? キリスト教も仏教も何でもありか? 便利がいいな!」〉

これらのエピソードは、たんなる「ほのぼのエピソード」にとどまらない、自衛隊員の他者理解・異文化理解、各国のPKO要員の相互理解の具体例と言っていいだろう。

日本人にとって中東は地理的にも心理的にも遠い。イラクに赴く前の自衛隊員の中東認識は、日本人の平均的な中東認識と大差なかったと思われる。そうだとすれば、現地での見聞をとおしてはじめて、自衛隊員はイラクと関連する中東に対する認識を深めたにちがいない。

PKOの理念にもっとも忠実だった自衛隊の活動は、現地で復興を進めようとする人々に歓迎された。自衛隊員と現地の人々のコミュニケーションは、相互理解を促進した。このような自衛隊の活動は、アメリカなどの他国からも肯定的に評価されるところとなった。

イラクから撤収する際の日誌(2006年7月18日、https://www.asahicom.jp/news/esi/ichikijiatesi/iraq-nippo-list/20180416/370/060718.pdf)の記述は、多少の自己正当化のニュアンスを否定しきれないものの、率直な心情の吐露だったと考えられる。

〈(自衛隊の)視線は常にイラク国民と同じで、イラクの復興を心から願う純粋な「真心」がある。米軍の広報担当が「サマーワの日本隊は、何故ローカル・ピープルからこんなにも支持されているのか?同じデモでも外国の軍隊に残って欲しいと陳情する自発的なデモなんて聞いたことがない」と逆に日本隊の活動に学ぼうとしていることは、自衛隊が「心・技・体」の充実した一流の武装組織である証左であり、誇りに感じて良いと実感している〉