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ルイ・ヴィトンが史上初の「アフリカ系デザイナー」を大抜擢した理由

ラグジュアリービジネスの変革が始まる
長沢 伸也 プロフィール

「ストリート化」するルイ・ヴィトン

ブランドが考える「これからのルイ・ヴィトン」という戦略的観点からも、アブローの起用は興味深い。

アブローは、既存のラグジュアリーとは対極にあるストリート・カルチャーに出自を持つ。それが驚き(と違和感)をもって迎えられたもうひとつの理由だが、実は先代メンズ・デザイナーだったキム・ジョーンズの時代から、すでにルイ・ヴィトンはストリートへの傾倒を始めていた。その点で、アブローの起用は順当かつ適任な人事でもあるのだ。

ジョーンズは、旧来の凝り固まったルイ・ヴィトンのブランドイメージを改革しながら、多くのブランドとコラボレーションを実施してきた。特に昨年は、スケートボードカルチャーに起源をもつ人気ストリートブランド「シュプリーム(Supreme)」とのコラボレーションで注目され、大きな売上をあげている。

昨年発売された「シュプリーム」とのコラボ商品(Photo by gettyimages)

アブローは自身のブランド「オフ-ホワイト」の由来について、「黒と白の中間色」であると述べている(https://www.vogue.com/article/virgil-abloh-biography-career-timeline)。ストリートとラグジュアリーのハイブリッドを確立したとも言われる彼が、ストリート接近の流れを一層加速させることになるのだろう。

そのビジネス面での意義を指摘するならば、伊ボッコーニ大学のファッションマネジメントの教授であるE. コルベリーニとS. サヴィオロの、次の記述が参考になる。

〈 フォーマルな利用場面はカジュアルな場面と区別され、仕事着はスポーツウェアとは異なっている。需要が複雑化されてくると、利用場面がさらに細分化される。フォーマルな場面の中には、昼間の仕事と晩の式典(ceremonies)の両方の要素が含まれる。製品の利用場面によって産業を分割化することにより、スポーツウェアや水着のようなセグメントを得ることができる 〉『ファッション&ラグジュアリー企業のマネジメント』東洋経済新報社、2013年)

スポーツウェアをストリート系ファッションのアイテムと置き換えれば、そのまま当てはまるであろう。複数のジャンルを融合させたり分割したりすることで、新しい市場が生まれるということだ。

「ラグジュアリー」は、汚さず綺麗に大切に衣類やアクセサリーを扱い、それに相応しいTPOで楽しむイメージである。一方「ストリート」は、タフで機能的、斬新なイメージで、高級感は重視されてこなかった。相反する両者の「良いとこ取り」は、大きな市場を生み出し、これからのブランドビジネスを大きく変えるかもしれない。

 

老舗だからこそ「変化」が要る

また、今のルイ・ヴィトンが「変化」を強く志向していることも指摘できる。

ラグジュアリーブランドの前身は、欧州の老舗や地場・伝統企業である。ルイ・ヴィトンも、もともとは1854年にパリの街角で創業した旅行鞄店だ。

誤解を恐れずに言えば、老舗はワンパターンである。しかし、同じものを長い間作り続けていれば飽きられるし、人々の生活様式が変わり「時代遅れ」になる危険性も本質的にはらんでいる。そこで、伝統と革新ないしは現代性という、二律背反に挑むことが宿命となる。

カルティエを嚆矢として、ルイ・ヴィトンやプラダなどが近年こぞって現代美術館をオープンしているのは、現代性をアピールするためである(J.-N. カプフェレ『カプフェレ教授のラグジュアリー論』同友館、2017年)。

また、1997年にルイ・ヴィトンのクリエイティブ・ディレクターに就任したマーク・ジェイコブスは、こう述べている。

「フランス生まれのフランスの老舗ブランドのルイ・ヴィトンが、なぜニューヨーカーのぼくをクリエイティヴ・ディレクターとして抜てきしたか考えてみて。それは、ルイ・ヴィトンがすでに国境を超えたインターナショナル・ブランドとしての自覚を持っていて、その視点からぼくに期待するものがあったはずなんだ」(筆者著『ブランド帝国の素顔 LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン』日本経済新聞社、2002年)

2014年までルイ・ヴィトンでデザイナーを務めたマーク・ジェイコブス(Photo by gettyimages)

彼の言葉は、今回のアブロー起用にもそのまま当てはまる。ルイ・ヴィトンにとって大胆な「変身」は初めてではなく、いわばDNAとなっているのである。