Netflixが「住所や年齢」を必要としないたった1つの理由

副社長が明かす「もっと使える情報」?
西田 宗千佳 プロフィール

広告ビジネスは「黄金の林檎」

Netflixについては、現時点で、Facebookなどの企業と決定的に異なる点がある。

「広告のビジネスをいっさい行っていない」ことだ。

同社の収益のほとんどは、顧客から集めた月額利用料であり、収集・蓄積した膨大な行動履歴も、自社のサービス向上のためにのみ使われている。

Facebookがまさにそうしているように、行動履歴を徹底的に活用すれば、そこには大きな広告価値が生まれるのだが、Netflixは、そのビジネスには乗り出さない。パートナー企業にも、いっさい情報を開示していない。その理由について、イェリン副社長はこう説明する。

「個人情報を使った広告ビジネスは『黄金の林檎』のようなものだ。確かに貴重だが、我々はそこに、絶対に手を出すことができない」

「黄金の林檎」とは、ギリシア神話や北欧神話に出てくる言葉で、「貴重なものではあるが、それに手を出した結果、たいていは不和や争いが生じる結果になるもの」を指す。

Netflixは、大量の行動履歴を集める一方で、顧客からの信頼を守るために、あえて「黄金の林檎」に手を伸ばすことをせず、「広告ビジネスを手がけない」方針を貫いているのである。

【写真】個人情報を扱った広告ビジネスは黄金の林檎」になりかねない
  個人情報を扱った広告ビジネスは貴重ではあるが、不和や争いのもととなる「黄金の林檎」になりかねない

「ただ集める」から「なぜ集め、どう使うか」へ

コンテンツ制作者は「Netflixは、我々に視聴履歴を教えてくれない」と口々に話している。特に、テレビ局や映画会社は、その点に大きな不満をもっているようだ。

ユーザーの行動履歴を照会できれば、彼らのビジネスにとってプラスになるのは明らかだが、Netflixは戦略的にそれを行わない。プライバシー保護に加え、自社のみがもつ情報とすることで、戦略的な武器となることを熟知しているからだ。

だが、コンテンツ制作者サイドから見れば、「コンテンツは提供しているのに情報をもらえず、一方的な関係を強いられている」と感じるようである。

個人情報の取り扱いは難しい。各社のビジネスモデルと経営戦略に大きくひもづいているからだ。

「とにかく集める」のではなく、「なぜ集め、どう使うか」を考えることが重要だ。各サービスの「レコメンド」機能に現れる特徴は、そうした戦略性を測るうえで、重要かつ典型的な情報を含んでいるのである。

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