画/おおさわゆう
医療・健康・食

医療界の略語はこんなに面倒で、病院内で「勘違い」が多発中

覆面ドクターのないしょ話 第23回
戦前はドイツ語、戦後は英語が幅をきかせている医学界。用語は、当然、外国語が使用されることが多い。しかも、これを略するとアルファベットの組み合わせになり、わかりにくいことこの上ない。この略語をめぐっては、やらかした本人が大いに赤面してしまう勘違いがよく起こるという。次郎先生ご本人がやらかしたエピソ—ドを含めて紹介してもらおう。

病院での略語は、読む側の忖度が必要!?


就職活動が解禁になり、街で就活生を見ることが多くなった。

これらの就活生も内定をもらい、やがては入社する。会社に入ってしばらくは研修があるが、それが終われば否が応でも現場に放り込まれる。毎日新しいことの連続で、わからないことばかり。就職直後に戸惑うのが業界用語ではないだろうか? どの会社でもそうだと思うが、その業界特有の略語というものがある。

 

「今日、ショコウゲラ(初校ゲラ=最初の校正刷り)が出るから、すぐにアカ入れ(赤鉛筆等を使って校正すること)しておけよ」
「漫画家さんのところでネーム(大まかに絵を入れコマ割りした漫画の設計図)の打ち合わせしたらチョッキ(直帰=出先から直接帰宅すること)します」

これらは出版社の業界用語なのだが、私にはちんぷんかんぷんだ。。

病院でも略語がやたらに多い。医学用語の略語には、英語を略したものもあれば、ドイツ語を略したものもあって、何かと面倒くさい。

読者の皆様は、WBCといったら何の略語だと想像されるだろうか? 普通は「ワールド・ベースボール・クラシック」をイメージするだろう。

だが、「ワールド・ベースボール・クラシック」が初開催される以前は、医療関係者にとってWBC=白血球だった。面倒なことに、医療関係者は、WBCを「ダブルビーシー」ではなく「ワイセ」と呼ぶのだ。

「ワイセは1万2000で、やや高値を示しており……」

などという。

なぜ「ワイセ」なのかというと、WBC=ホワイト(白)ブラッド(血)セル(細胞)→ホワイトセル→ワイセ、になったのだと思う。

では、赤血球(RBC/レッド・ブラッド・セル)は何と呼ばれているのかというと、なぜか「せっけっきゅう」という日本語で落ち着いている。

以前は赤血球を「ローテ」と呼ぶ人もいた。ローテとは「赤い」という意味で、ドイツ語から来ている。

医療関係者が使う単語の中に「MT」という略語がある。話し言葉ではなく、書類の中に散見されるものである。私の経験上、意味は3種類ある。マーゲン・チューブ、②ムンテラ、③ミッテル

①のマーゲン・チューブとは、直訳すれば「胃管」。鼻から胃の中に挿入する管のことである。マーゲン(Magen)はドイツ語で「胃」、チューブ(Tube)は英語の「管」を意味する。変な話だが、文字通りドイツ語と英語をごちゃ混ぜにした和製外国語である。ドイツ語に統一するなら「マーゲン・ゾンデ(Sonde)」、英語なら「NG チューブ」(naso-gastric tube=経鼻胃管)が正解。

②のムンテラとはドイツ語の「ムント・テラピー(Mund Therapie)」を略したものである。ムントは口、テラピーは英語でいうセラピー=治療、よって口頭で患者さんや家族に説明することを慣習的に意味し、略して「ムンテラ」。これをMTと略す人がいる。

③のミッテルとはドイツ語で「Mittel=」を意味し、かなり年配の医者が使うが、ほぼ死語になっている。おじいちゃん先生がカルテ上に、「MT処方」などと書くことがある。

ムンテラしてもらうなら、なるべくやさしい先生がいい(photo by istock)

これらのように、各人が様々な略語を使うので、何を意味しているのか、読んだ人が忖度しなければならない。