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部下に「フィードバック」をするのは、日本人には向いてなかった

自分の頭で考える会話法をご存知ですか
久野 和禎 プロフィール

フィードバックの問題点

答えは意外と簡単です。フィードバックはそもそも欧米のもので、日本の文化には合わないのです。

欧米の文化では、フィードバック、つまり「誰かに対して自分の意見を述べること」はごく普通のことで、わざわざ「忌憚なく」と強調する必要がありません。それがフィードバックの場面であれば、当然のように「忌憚なく」話します(もちろん欧米でも、単なる日常会話でいつも忌憚なく話をしているわけではありません)。

ところが、そもそも日本人は「忌憚なく」伝えるのに慣れていません。先の事例のように、「忌憚なく」が行き過ぎると単に失礼な上司になってしまいます。あそこまでひどくないとしても、元々立場が強い上司が「忌憚なく」ものを言うと、それだけで部下にとっては大変な圧力になります。

一方、パワハラになるのを恐れてはっきり言えず、きちんと伝わらないようだと「よくわからないフィードバック」になってしまいます。「はっきり言わないコミュニケーション」が染み付いている日本人にとって、フィードバックはとても難しいものなのです。

それから、もう一つのより深い問題点は、フィードバックが私たちを「反省モード」にさせる点です。フィードバックを受けると私たちは後ろ向きになってしまいます。

私が専門としている認知科学のモデルでは、人間は未来に目を向けて時間を過ごすことで脳を活性化させることができる一方で、過去に目を向けて時間を過ごすと脳の創造的能力が低下してしまうことがわかっています。

先の上司と新人の事例でも、会話が進むのにつれて、新人がどんどん元気がなくなっているのがわかります。これは、脳の創造的能力が低下しているからです。根本的に、フィードバックは私たちの脳の能力を低下させる活動なのです。

ここまでの話を一度整理すると、このようになります。

(1)フィードバックは日本人向きではないので、上手に行うのがとても難しい
(2)フィードバックは過去に目を向けるため、脳の創造的能力を低下させる

そのため、皆「フィードバック」はあまり好きでなく、しかも、その効果も限定されているのです。

 

「フィードフォワード」で未来に目を向ける

数年前から「フィードバック」の問題点に気がついていた私は、何かもっといい方法がないかと考え続けてきました。そこで考えついたのが「フィードフォワード」です。

私自身は普段、エグゼクティブ専門のコーチとして活動していて、日々クライアントと一対一で面談を行っています。その中で私が行っている内容は、明らかに「フィードバック」とは異なり、むしろ対極にあることです。しかし、それでも私のクライアントたちは皆、私とのセッションを通じて着々と成功への道を歩んでいます。

あるとき私は、「自分がやっていることのエッセンスを抽出して、誰でもできるようにまとめてみよう」と考えました。そうすればもっと多くの成功者を輩出し、もっと多くの方に喜んでもらえるだろう、と考えたからです。

フィードバックの問題点の解決、そして、私自身の技術の公開。この2つのゴールがリンクして、ある時「フィードフォワード」というコンセプトが生まれました。

「フィードフォワード」という言葉は少し耳慣れないかもしれませんが、元々「フィードバック」と並んで「制御工学」と呼ばれる分野で使われている言葉です。最近では、人材育成やマネジメント、経営の分野でも使われるようです。

私は、せっかくコーチとしての自分の技術を公開するのだから、しっかりとした理論体系を確立し、全てを見せたいと思いました。そのため、まず土台となる「フィードフォワード思考」という基礎概念を固め、その上で「フィードフォワード」という技法を体系化することにしました。

フィードフォワード思考は以下のように定義しています。

「過去や現在よりも未来に目を向け、その未来に働きかけることでより多くの価値、成果、幸せを生み出すことができるとする考え方」

また、フィードフォワード自体は以下のように定義しています。

過去や現状にとらわれてしまいがちな人に対して、コミュニケーションや観察を通して相手の状況を把握し、相手に起きている出来事やそれにともなって体験している感情を受け止めた上で、その人が自分の未来に意識を向けて行動できるように促す技術のこと

フィードフォワードを用語として分解すると、

「フィード」=「送る」
「フォワード」=「前へ」

となります。二語を合わせて「前に送る」ということになります。

簡単に言うと、「フィードフォワードを受ける人」の意識を未来に向けるのが、「フィードフォワード」です。

また、フィードフォワードを行う人を「フォワーダー」、フィードフォワードを受ける人を「レシーバー」と呼んでいます。「フォワーダー」が「レシーバー」に働きかけ、未来に目を向けることができるようなコミュニケーションを行う、ということです。

以下に、フィードフォワードとフィードバックについて比較した表を掲載したので、参考にしていただければと思います。