写真撮影:田中圭祐
政治政策 学校・教育

私が大学で「ナチスを体験する」授業を続ける理由

人はいとも簡単にファシズムになびく

7月10日、甲南大学文学部より、本記事に関し、「掲載画像の一部が恣意的に切り取られ、悪意を持って解釈される可能性がある。甲南大学のキャンパスであることが特定できる写真、学生の顔が写っている写真を削除してほしい」との要請がありました。

なお、著者の田野大輔氏は、事前に授業を受講している学生には写真撮影の了承を得ていました。

上記の要請を受け、7月12日より、本記事のトップ画像、1〜2ページの画像を、削除するか、公開当初とは別の写真に差し替えています。

「受講生に制服を着させてグラウンドで行進や糾弾を行わせる『ファシズムの体験学習』という授業をやっています」

筆者がこう話をすると、たいていの相手は怪訝な顔をする。

「そんなことをして大丈夫なんですか?」

こうした懸念を抱くのも無理はない。何しろあの「悪の代名詞」たるファシズムである。ナチスを模倣したパフォーマンスを行うなど、いかにも問題がありそうだ。

それでもこのような授業を行うのは、ファシズムに対する免疫をつけるためには、その危険な感化力を一度身をもって体験する必要があると確信しているからである。

「ファシズムの体験学習」は、筆者が勤務校の甲南大学で担当している講義科目「社会意識論」(受講生約250名)のなかで毎年実施している2回の特別授業である。

その内容は簡単にいうと、教師扮する指導者のもと独裁体制の支持者となった受講生が敬礼や行進、糾弾といった示威運動を実践することで、ファシズムの仕組みとその危険性を体験的に学んでいくというものだ。

なぜいまさらファシズムなのかと思う向きもあるかもしれないが、たとえば近年わが国で問題になっているヘイトデモなどにも、これと共通の仕組みを見出すことができる。この授業の受講生は、そうした現代的な問題への対処の仕方も学ぶことになるのである。

 

拍手喝采で独裁者を承認

「ファシズムの体験学習」を着想するにいたった経緯としては、ドイツ映画『THE WAVE ウェイヴ』を知ったことが大きい。「独裁制」の体験授業に参加した高校生たちが集団の一体感に魅せられ、教師のコントロールを失って過激化していくさまを描いたこの映画の内容は、「ナチズムがなぜ多くのドイツ人の心をとらえたのか」を長年にわたって研究してきた筆者の問題関心と重なる。

だが映画では授業が生徒たちの暴走を引き起こし、悲劇的な結末につながっていくことから、同様の事態を防止するために、細心の注意を払う必要があった。そこで体験授業を実施するにあたっては、実施前に参加者に暴力禁止などの注意事項を伝達し、実施後もSNS等を通じたモニタリングを行うといった対策を講じた。

そうした対策の効果もあってか、これまでのところ懸念すべき事態は生じていない。ただし倫理上の問題に加えて心理的な影響も危惧されるため、慎重な取り扱いを要することに変わりはない。

それでは授業の具体的な進行を紹介していこう。

1回目の授業では、まず事前に注意事項を伝えた上で、独裁的な政治形態をとるファシズムにとって指導者の存在が不可欠であることを説明し、教師がその指導者(「田野総統」)となることを宣言、全員に拍手喝采で賛同させる。満場一致で指導者を承認することが、独裁制の確立に向けた第一歩だ。

そして教師=指導者に忠誠を誓わせる敬礼(右手を斜め上に挙げて「ハイルタノ!」と叫ぶ)を導入し、教室内でその敬礼と行進の練習を何度か行って、集団の力の大きさを実感させる。

この練習の際、「もっと大きな声で!」「足を強く踏みならして!」などと教師が煽ると、最初ためらいがちだった受講生の声は徐々に大きくなり、足踏みの音も揃ってきて、最後には教室中が轟音に包まれる。

さらに受講生を友達グループから引き離し、教師の指示への従属を強める目的で、誕生月ごとに座るよう席替えを行う。そしてこの指導者と支持者からなる集団(「田野帝国」)の目に見える標識として制服とロゴマークが重要であることを説明し、次回の授業に指定の制服(白シャツとジーパン)を着てくるよう伝える。