Photo by GettyImages
学校・教育 週刊現代

「政経学部」入試で数学が必須に...早稲田の狙いが分かった

気持ちはわかるが、ちょっと心配

かつての「バンカラ」から、「グローバル」へ。創立150周年を控え、「都の西北」が次々と打ち出す変革の数々。早稲田はいったいこれから、どこへ向かうのか?

偏差値で慶應法に抜かれ

「数学の必須化について、大学の内外から色々とご意見を頂きますが、評価はまっぷたつですね。『(大学としての)本来の姿だ』と言ってくださる方もいれば、『(受験産業などへの)影響が大きすぎて実行不可能ではないか』という厳しい意見もありました」

そう話すのは、早稲田大学政治経済学部の学部長・須賀晃一教授だ。

いま「私学の雄」早稲田が大きく変わろうとしている。学生数、授業のカリキュラム、果ては財政基盤――。詳しくは後述するが、様々な改革に取り組もうとしている。

5月30日、早稲田大学が看板学部である政治経済学部の一般入試における「数学」の必須化を発表。教育業界に大きな衝撃が走った。

これまで政治経済学部の一般入試では外国語、国語が必須科目。地理・歴史または数学から1科目を選ぶという、計3科目を課してきた。一般入試では、センター試験の成績が加味されることはなかった。それを、大幅に変える。

試験を200点満点にし、まず大学入試センター試験の後継である「大学入学共通テスト」から、①外国語、②国語、③数学Ⅰ・数学A、④選択科目(地理歴史、公民、理科、数学Ⅱ・数学Bの中から1つ)を各25点、計100点に換算する。

そして、残りの100点のうち3割程度は英検などの「英語外部検定試験」の結果を換算。さらに日本語、英語両方による長文を読み解いた上で解答する学部独自試験を課す。

これらの合計点により選抜する方式に変更するのだ。'21年2月の入試からスタートする。

 

これまで政経学部はマニアックなほど細かい知識を問う地理・歴史の問題など、独自の入学試験を課してきた。文系科目に特化した、ある種の一芸に秀でた学生を選抜してきたと言える。前出・須賀教授が話す。

「数学を必須化することについて、もちろん学部内でも議論がありました。早稲田の政経を受験するために、他の科目を犠牲にしている人がいますから。

そういう人たちを排斥することになるんじゃないか、門戸を閉ざすことになるんじゃないかという話になりました。

さらに必須化するのは『数Ⅰ・数A』ですが、実際に経済学を学ぶ上で必要なのは『数Ⅱ・数B』の能力。なので、学部内の経済学の先生たちからは『せっかくなら、数Ⅱ・数Bを必須にするべきでは』という声もあった。

一方で政治学の先生たちからは『そもそも数学を必須化する必要はない』と反発もあった。経済学系、政治学系両者の教授陣が歩み寄った結果、数Ⅰ・数Aを必須化する形になったわけです」

かつて、早稲田の政経は私大文系学部のトップをひた走っていた。ところが、'90年代後半から、2000年代にかけて、慶應法学部に偏差値で抜かれてしまう。

現在もトップは慶應法学部の偏差値83、早稲田政経は偏差値82で2位に甘んじている(ベネッセ主催で毎年6月に行われる総合学力マーク模試での数字)。『早稲田と慶應の研究』の著者である、ライターのオバタカズユキ氏が話す。

「早稲田の政経は、東大など難関国立大のすべり止めにする受験生もいますが、'90年代後半から、例えば慶應の経済学部に受かった場合、そちらに入学する率のほうが高くなっています。

人気低下の一因は、不景気で『就職に強い』イメージのある慶應に敵わなくなったこと。

そして、受験日程の関係で、慶應は東大の二次試験の前に合否がわかることも関係している。本命の受験の前に合否がわかっていたほうが精神的にも楽ということもあり、慶應を志望する生徒が多いんです」

都内の予備校関係者によれば、「早慶で同レベルの偏差値の学部両方に合格した受験生の9割は慶應を選ぶというデータがある」という。教育ジャーナリストの小林哲夫氏は政経改革による変化をこう予測する。

「政経が数学を必須化することで、確かに受験生は多少減るかもしれません。ただ、そこまで極端に減ることはないでしょう。むしろ、早稲田としては、多少減ってもいいから、質の高い学生を確保することを狙っているのだと思います」

偏差値は'17年度のもの(ベネッセHPより)。2000年以降に設置された学部のみ年を記載