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次世代自動車戦争「100年後も生き抜く」トヨタの覚悟と戦略

そして、危機感も

トヨタ自動車は2018年3月期連結決算で、純利益2兆4939億円と過去最高益を更新した。しかし同社の豊田章男社長の言動から伝わってくるのは、これまでにない危機感である。過去に例を見ない自動車産業の構造変化の中で、「100年後も生き抜く」ためにどう変わるべきか。2022年の次世代自動車産業―異業種戦争の攻防と日本の活路』の著者、田中道昭氏が次世代自動車産業の核心を解説する。

にじみ出るトヨタの危機感

豊田市トヨタ町、6月14日。「招集通知」を手にする株主たちが、続々とトヨタ本社に吸い込まれていく。「招集通知」の1ページ目には、両手を広げた豊田章男社長がステークホルダーを笑顔で迎え入れるような写真が掲載されていた。そのメッセージは笑顔やその字面とは裏腹に危機感がにじみ出ていた。

「大きな自動車会社となったトヨタが変わることは簡単ではないかもしれませんが、『Start Your Impossible』を合言葉に(中略)、ImpossibleをPossible(可能)にする新しいモビリティを創造してまいります」

純利益2兆4939億円。トヨタは前期、史上最高益をたたき出した。順風満帆と世間では受け取られているが、先の見える経営者ほどいまの好決算が長続きするとは考えない。次なる一手を怠れば、瞬時に奈落に叩き落される。自動車産業はそうした時代を迎えている。

「100年後も生き抜く」と株主総会で語った豊田社長だったが、そのひと月前の決算発表では「未知の世界での生死を賭けた闘いが始まっている」と表現してみせた。不可能を可能にしなければ、100年どころか、10年後の未来も見通せない。そんな危機感がいまの豊田社長を突き動かしているのだ。

決算説明会での豊田章男社長/Photo by Gettyimages

事実、トヨタが今後、100年を生き抜くためには、この数年が勝負だ。

筆者は5月、『2020年の次世代自動車産業―異業種戦争の攻防と日本の活路』を上梓した。金融機関でキャリアをスタートし、経営コンサルタントに転身した私なりの視点を持って、いちから自動車産業を学びなおし、分析を行ったうえで、現在の自動車産業を取り巻くトピックを網羅した。

書き始めてみれば、次から次にあふれ出てくる新事実や新たな現象との格闘を余儀なくされた。結果、ワンテーマの新書という形態からはほど遠く、全480ページものボリュームとなってしまった。

調べて行くほどに高まったのは危機感である。日本の基幹産業である自動車産業で巻き起こっている現象は、これまでのいかなる産業構造の転換期よりもスピードが速く大規模なものだ。それは私の常識をはるかに凌駕していた。

この危機感は自動車メーカーやそれに携わる人々だけのものに留まらせては日本の産業全体に、多大なダメージをもたらしかねない。日本が活路をどう見出すかを示すには、どうしても480ページが必要だったのである。

 

ドイツ、中国メーカーの破壊的改革

ご存知のように現在、世界の時価総額で上位を占めるアップルやアマゾン、グーグルなどのメガテック企業がこぞって自動車産業に参入しようとしている。彼らは既存メーカーとは桁違いの研究開発費を投じて、あっという間に次世代の自動運転車に搭載できるAI技術をものにしようとしている。(詳しくは<ジェフ・ベゾスの次の野望は「アマゾン・カー」の実現だった>も参照してほしい)

これに対抗するために、既存メーカーはディスラプション(破壊的改革)に勤しんでいる。たとえば「1000万台クラブ」(自動車業界でのグローバル競争生き残りの条件とされる生産台数)の常連である日独の自動車メーカーの攻勢で弱体化し、リーマンショックで瀕死の状態にまで沈んだ米フォード、GM、ダイムラーなどが、次々にディスラプションに成功しつつある。

日本ではまだ先だと考えられがちな完全自動運転車の実用化だが、GMが今年にはいって「2019年内」に実現するとして、ハンドルもアクセルやブレーキペダルもないクルマのイメージ図を公開した。すでに完全自動運転車の実用化は目の前に迫っているのだ。

中国勢の台頭も顕著である。「中国のグーグル」と日本では呼ばれている百度(バイドゥ)がビッグデータ×AIを駆使して、自動運転プラットフォームとなる「アポロ計画」を実行中だ。中国EV車メーカーは60社以上存在するとされ、中国国内で激しい攻防が繰り広げられている。

6月13日から3日間にわたり上海で行われた「CESアジア2018」では、中国の巨大資本化したEV車メーカーも参加し、中国メーカーが完全自動運転技術の獲得まで目前に迫っていることを印象付けた。これを政府が国策として自動運転化やアポロ計画を後押ししている。中国が先進国にむけてEV車を輸出する日もそう遠くないだろう。