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脱法シェアハウス暮らしから見えた日本に潜む「悪意ある人種差別」

「日本は単一民族の国」なんかじゃない
王谷 晶 プロフィール

間近で起きなければ気づかない「差別」

ある休日、共有スペースの大きなテーブルで昼飯を食べているときだった。

少し前に台湾から来日したAさんが、たくさんのノートや本を抱えてやってきた。Aさんは留学生で日本語学校に通いながら近所の居酒屋でバイトをしている、程度のバックボーンは知っていた。

「宿題がたくさんあります」と言って勉強を始めたAさんだが、そこに一番長期滞在しているシェアハウスのヌシのような存在で、数カ国語を駆使する日本人・Bさんがやってきた。Bさんは社交的な性格で面倒見がよく、来日して日が浅い住人の相談に乗ったりもしているナイスガイだ。すでにAさんとも仲良くなっているらしく、二人はなごやかに世間話を始めた。

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しかしAさんが宿題のテキストを見せながら質問をした瞬間、Bさんの顔色が変わった。

「ちょ、ちょっと王谷さん、これ見て。これ、俺の読み間違いじゃないよね……」

突然話をふられて驚いたが、尋常でない様子に慌ててカレーを食っていたスプーンを置いて二人の側に行った。

BさんはAさんの宿題を見ながら震えていた。それは手書きのテキストをコピーした紙の束で、日本語の文章と、その読みをローマ字で書いたものがいくつも並んでいた。数行読んでその異様さはすぐ理解できた。

テキストの日本語部分は「外国人は泥棒が多い」「中国人はうそつきです」等、差別的な表現がびっしりと書かれていたのだ。ここには書かないが性的な揶揄もあった。ちなみにAさんは若い女性だ。

Bさんが言葉を選びながらAさんに「このテキストは使わないほうがいい、なぜなら……」と説明すると、Aさんはショックを受けて泣き出してしまった。

その後詳しい事情を聞くと、このとんでもないテキストは学校ではなく、個人がやっている日本語教室で配布されたものだという。勉強熱心なAさんは学校の掲示板に貼ってあった「ボランティアで日本語を教えます」という案内を見てその日本語教室に通いだした。

初老の日本人男性が講師で、自宅内ではなくわざわざ庭にプレハブの教室を建てて生徒を募集していたので、ちゃんとした所だと思い入会した、らしい。もちろんテキストに書かれている日本語がそんなひどい意味だとは、一切教えられていなかった。

 

Bさんと私は絶句して顔を見合わせてしまった。そんなコストと手間暇をかけて、システマティックに外国人を騙していじめている奴がいる。その偏執的な悪意に、心底恐ろしくなった。しかもそんな奴が近所の庭付き一戸建てに住んでいるのだ。普通の地域住民として。

差別問題、特に人種差別問題が話題になるとき、「日本には人種差別はない。自分は見たことがない」という意見はけっこう見る。観測場所によっては、その意見がマジョリティな場合もある。でも、はっきり言うが日本には世界中の他の国や地域と同じように、人種差別が横行している。

目立つものとしては繰り返される街頭でのヘイトスピーチデモや、ネットでのヘイト書き込み。入国管理局や外国人労働者を雇っている企業の横暴。そして上に書いた話のような、間近で起こらなければ気づかない、でも強い悪意を感じる差別。