可愛い赤ちゃんでも、何をしても泣き止まないと心が折れそうになる Photo by iStock

虐待・自殺が止まらない…「産後うつ」の実態と今すぐにできること

虐待死の43%は0歳児です

胸ふさがれるような虐待の事件が後を絶たない。様々な背景があるが、「産後うつ」はその原因の一つだ。自ら産後の辛さを実感したジャーナリストのなかのかおりさんが、妊産婦のメンタルヘルスに取り組んできた産婦人科医・海老根真由美さんに実態を聞いた。

23区で10年間に63人の妊産婦が自殺

私はワンオペ育児に苦心した経験から、産後うつの取材をしている。記事に対して「私も赤ちゃんを投げ捨てようと思った」と切実なコメントが寄せられ、この瞬間にも「もうだめ」とツイートする母親たちがいる。産後うつが影響する児童虐待のニュースも後を絶たない。医療機関や行政の課題は何か。身近な家族や友人ができることは――。

国立成育医療研究センターと聖路加国際大、東京大は、産後1年未満の自殺件数や背景を明らかにする研究を進めている。昨年度に調査を終え、今年度末までに結果を発表したいという。母親のメンタルヘルスケアの充実や関係機関の連携を進める目的だ。日本の妊産婦死亡率は出産10万人に対して3.8人と、医療技術の向上で低くなっている一方、産後うつなどの実態はわかっていない。

東京都観察医務院などの調査で、東京23区で2005年から10年間に63人の妊産婦(妊娠中~産後1年未満)が自殺したとわかった。これは出産10万人に対して8.7人と高い数字だ。産後の母親の様子に詳しい医療関係者がいないので調査結果が少ないが、海外のデータと比べても多いという。他に、大阪市で2012~2014年に妊産婦の自殺は9件、三重県では2013~2014年に4件との報告がある。

 

リアルな育児の始まりと共に発症

海老根さんは1997年、厚生科学研究(九州大中野班)に参加。妊産婦に担当助産師を決め、メンタルヘルスの調査をした。

「国内で産後に落ち込む『マタニティーブルー』は、30%ほどのお母さんに見られ、それは1週間から2週間位の一過性のもので1ヵ月は超えません。産後1か月ぐらいから産後うつを発症する可能性があり、3ヵ月でピークを迎えます。産後うつは10%ほどに見られます」

「産後1か月の健診ではわからないことも多いです。里帰りをしていれば親の援助もあるものの、自宅に帰れば支えがなくなり、リアルな育児が始まる。新生児はよく泣く赤ちゃんへと変化していきます。6ヵ月までが特に産後うつを発症しやすい時期で、産後1年以内に発症する例が多いです。発症しやすい要因には、住居環境の不満足、産後の夫の家事時間が短いことなどがあります」(海老根さん)

筆者は産前産後に夫が海外に単身赴任しており、身内は遠方・高齢で頼れなかった。出産直後に激しいブルーに襲われて号泣。臨床心理士を紹介されてしばらくカウンセリングを受けた。産後は出血が続き、ぼろぼろの体で1日に10回以上の授乳やおむつ交換。細切れ睡眠でぼーっとした頭で、夜中に娘を抱えて「口を押えたら泣き止むかな」と考える自分が恐ろしかった。「虐待や産後うつは特別な例ではない」と実感した。

赤ちゃんは可愛い。きちんと育てたい。そう思っていても、密室にずっと二人きりで、何をしても泣き止まない場合、途方にくれてしまうことも多い Photo by iStock

虐待死の被害、0歳児が43%

実際に産後うつは、虐待にも結びつく。厚生労働省によると、2011年度に心中以外で虐待され亡くなった子58人のうち、0歳が43%で最多。1歳が14%と次に多い。死亡させた理由の上位は、1歳未満で、「育児不安や育児負担感」「産後うつ、育児ノイローゼ」が多かった。主な加害者は実母が約80%だった。

「妊婦健診で産後うつを発症しやすい要因があるか、家族背景、経済的な問題といったリスクを早期に発見し、医師や助産師の介入や、精神科や他科との協力が必要。医療機関と行政との連携や、出産前からの情報交換も大事です。こうした介入や援助がないと、虐待に結びつきやすい。妊婦健診を受けず、サポートがなくて養育の意識が低く、ネグレクトになった例もあります」

妊娠中に夫から受けたDVが子への虐待につながるケースも見てきたという。「医療関係者は、意外にも虐待やDVに関する知識が乏しいです。警察、児童相談所、保健所、婦人相談センターなどの通報先すらわからない場合も少なくありません。医療者が感じる危機感を関係機関に伝えきれなかったり、母親の公的機関に対する不信感があったり、現実的な対応を協議するのに時間がかかり、対応が遅れがちです」