photo by Getty Images
国際・外交 中国 アメリカ 北朝鮮

「大国を競わせて生き延びる」北朝鮮のDNAを解説する

熾烈! 米朝中の外交戦の構図

6月12日の米朝首脳会談からは、わずか1ページ半、500単語足らずの合意文書しか出てこなかった。

こんなに簡単な合意をするために2ヵ月以上をかけて板門店、ニューヨーク、シンガポールと3ヵ所に分かれて両国が協議・準備してきたのか。

金正恩は今後も真面目に交渉を続けるか

そうではなく、おそらく未完の合意草案がある。ポンペオ米国務長官も記者会見で「これまで話し合ってきたことは、署名文書の範囲に止まらない」と主張した。交渉の様子をある程度知る立場にいる米国政府に近い専門家からも同じ指摘がある。

当事国が合意・署名する外交文書を交渉するときは、議論を整理し手戻りを防ぐために「ブラケット(カギ括弧[ ]の意味)」という手法が使われる。双方の主張が一致をみないときは、合意できていない印として、その部分(一方だけの主張、あるいは両論を併記)を[ ]で囲むのだ。合意された部分からブラケットを外していって、双方の溝を縮めていく。

今回もCVID(完全で検証可能不可逆な非核化)や制裁解除のハウツーを取り決める合意文書案を交渉していたはずだ。憶測すると、当初は世界が予想していたように、もっと詳しい内容を盛り込んだ合意文書に調印する予定だったのではないだろうか。

しかし交渉が難航して時間切れになりかけた時点で、トランプが「合意文書がまとまらなくても、会談は実施して『成功』させたい。残る争点は大統領の私には中身が細かすぎるので、今後ポンペオが詰めろ」と言ったのではないか。

前日11日までシンガポールで続いていた実務者交渉が、一転、切り上げられて終わったそうだが、その時点で「詳細版」を断念して「短縮版」で行くことが決まったのだと仮定すれば腑に落ちる。

そうだとすると、「非核化」の肝になる約束内容の詰めは、今後、ポンペオの交渉手腕に委ねられる。トランプはそうすることで、将来できあがる合意内容に欠陥があっても「自分のせいではない」と言い張れるし、ポンペオは「肝の部分は、国務長官たる自分がまとめた」という手柄を手にすることができる。

ちなみに、ポンペオは有能な野心家のようだ。「ウェストポイント士官学校首席卒業」の看板に加え、国務長官に指名された後、クリントン元長官を訪ねて教えを請う如才なさ(議会の指名承認円滑化対策)もある。

この交渉をまとめることができれば、それを手柄に大統領選に打って出る途が拓けるかもしれない。

 

関係国の「同心円」構造

署名された文書によると、「ポンペオ米国務長官と北朝鮮の担当高官が主導して、できるだけ早い日程でさらなる交渉を行う」そうだ。

そこで決まる「非核化」や制裁解除の中身によって、今後の北東アジアの地政学が大きく動く。それゆえに、米朝両国に加えて中国が外交戦の火花を散らしている。

同心円を描くと、中心が米朝両国なのはもちろんだが、同じ円内に中国が食い込もうとしている。さらに外側には韓国やロシアもいて、何とか中心に割って入ろうとしている構図だ。

ちなみに、韓国の文在寅大統領は、先週ロシアを公式訪問、下院で行った演説で「南北露の三角経済協力は、鉄道やパイプライン、電力網分野で共同研究などの基礎的議論が進められた」「鉄道・エネルギー・電力での協力が実現すれば、北東アジア経済共同体の堅固な土台になるだろう」「南北間の安定した平和体制は、北東アジアの多国間平和安保協力体制に発展するだろう」と演説したという(2018年6月22日付「中央日報」日本語版)。

「南北露の三角経済協力」とは、いささか気が早すぎるが、ロシアも巻き込んだ経済協力を取り上げれば、韓露両国も今後のプロセスに関わりやすくなる。「おぬし、なかなかやるな」である。