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凶悪犯罪続発!アメリカを蝕む「非モテの過激化」という大問題

テロにも発展。その名は「インセル」
八田 真行 プロフィール

インセルの意外な源流

Incelという語自体は(皮肉なことに女性によって)1993年に開設された掲示板サイトに由来するそうだが、インセルというコミュニティの由来は、やや意外なところに求めることができるらしい。

人種差別やヘイトクライムに対抗する非営利団体、南部貧困法律センター(Southern Porverty Law Center)によれば、「インセルはピックアップ・アーティスト運動から派生した」という。

ピックアップ・アーティストというのは、ようするに「ナンパ師」のことだ。女性を口説いてセックスに持ち込むことをピックアップ(お持ち帰り)と言い、そのための心理的テクニックを学んで駆使するのがピックアップ・アーティストである。

現在のピックアップ・アーティスト運動の源流とされているのが、ロス・ジェフリーズという人だ。1999年の映画『マグノリア』でトム・クルーズが演じた役のモデルがこの人で、80年代末に神経言語プログラミング(NLP)等の心理学的小道具をちりばめたナンパ術を編みだしたと称し、「生徒」を集めて伝授していた。

2005年にはジャーナリストがピックアップ・アーティストのコミュニティに潜入取材したノンフィクション「The Game」がベストセラーとなり、その名も「The Pickup Artist」という、参加者にピックアップ・アーティストがナンパ術を指南するというリアリティ番組も制作されて人気を博した。

最近有名なのはルーシュ・V(本名ダルーシュ・ヴァリザデー)という人で、熱心なトランプ支持者として知られている。ちなみに筆者が探したところ、トランプが大統領選に打って出る遙か前の2013年の時点で、「ピックアップ・アーティストが見習うべきはジェームス・ボンドではない、ドナルド・トランプだ」などという書き込みがあった。

 

非モテもナンパ師も、根っこは一緒

ナンパ師というと、自信過剰なイケメンというイメージがある。それは先の話で言うチャドであり、インセルとはむしろ敵対関係にあるような気もするわけだが、ピックアップ・アーティストとピックアップ・アーティスト運動は別物であることに留意しなければならない。

ピックアップ・アーティスト運動は結局のところ自己啓発の一種で、参加者の大多数は自分に自信がなく、他人との付き合いが苦手な人たちだ。だから、それほどインセルと距離が遠いわけではないのである。

加えて、インセルとピックアップ・アーティストは、強烈な女性嫌悪(ミソジニー)という共通点がある。

インセルはともかくピックアップ・アーティストは女好きなのではないかと思う向きもあるだろうが、筆者がピックアップ・アーティストに関する文章や掲示板などの書き込みを読んで思うのは、そもそもピックアップ・アーティストの多くにとって、女性と楽しくお付き合いすることが目的ではないということだ。

口説きを「ゲーム」と称していることからも分かるように、心理テクニックやら何やらを駆使し、相手を意のままに操って見下す、それによって自信を回復する、というところに主眼があり、女性にはスタンプカードに押されたスタンプ程度の意味しかない。

先の言い草をまねて言えば、世の中の女性は軽薄で愚かなので、自分程度の男でも、ピックアップ・アートに操られて引っかかるのだ、という根深い蔑視が潜んでいる。自分程度の、というのがポイントで、「自分を入れるようなクラブには入りたくない」という有名な警句があるが、ピックアップ・アーティストもインセル同様、自己嫌悪から自由ではないのである。